鯖江メガネファクトリー

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HOME > ゲンバシュギ > 044 玉田隆則(金型職人)

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メガネを作る上で必要不可欠な「金型」。前澤金型はメガネの様々なパーツの型を製造する、言わば”縁の下の力持ち”。そんな金型の作り方も昔に比べて随分進化を遂げたそうです。今回は取締役の玉田隆則氏に「金型作り」について、また「金型屋さんのこれから」について伺いました。

脱・縁の下の力持ち。

img1.jpg玉田隆則氏----御社はどのようなお仕事をされているんでしょうか?
メガネの製造に必要な金型を受注生産しています。また、作った金型を利用して、成形も行っています。フレーム、テンプル、モダン、ノーズパッドなどいろいろな部分を作っています。

--成形というのは?
うちは射出成形(しゃしゅつせいけい)というのを専門に行っているのですが、加熱したプラスチックを圧力をかけて型に押し込んで、形を作る加工方法が射出成形です。

--射出成型でつくるメガネの素材にはどんなものがありますか?
フレームによって様々です。ナイロン、熱可塑性エラストマー、CP素材(プロピオン酸セルロース)などのペレット状の樹脂を溶かして使うことができます。

--金型と成形を1社で行なっていらっしゃるのは珍しいのでは?
昔は金型は金型屋さん、成形は成形屋さんと分けられていたんですが、金型を成形屋さんに渡して成形した時に、「もっとこういう形にして欲しい」という要望がよくあります。その時はまた金型屋さんに型を戻して修正をしなきゃいけないのでタイムロスが生まれますよね。納期が遅くなるわけです。だから、うちではそのロスをなくすため、初めはサンプルを作るというかたちで成形を始めました。

--なるほど。もともとは成形はされていなかったんですね。
そうですね。でも今は金型屋さんみずから、成形したものや部品などを商品として顧客へ納品できなければ、生き残っていくのが難しいと思います。今までは縁の下の力持ちでいられたけど、仕事を待っているだけではダメ。これからは自分から仕事を作り、顧客に提案していかないとね。

img4.jpg自社製品の「CODE ROLL」--自分から仕事を作っていく…。なかなか難しそうですね。
今、メガネのモダンの部分の素材でイヤホン等のコードを巻き取るグッズを製造しています。モバイルネットワーク時代にあったものづくりを顧客へご提案して販売を広げています。




img3.jpg自社製品の「CODE ROLL」の製造風景。--金型屋さんがオリジナル商品を作るというのはおもしろいですね!
新しいことを進めて結果が少しずつ出てくるうちに、若い従業員が自信をもてるようになり、顧客との新しい信用と信頼ができつつあります。人間誰しも、自信の無い人には物事を依頼することはしないでしょうし、従業員の人間形成を向上させていく過程で、自信をつけさせるきっかけをつくることが重要なのです。仕事を受ける立場だった金型屋さんが、仕事を生み出す企画の場に触れるのは新鮮ですし、とても楽しいですよ。

--ゼロから何かをつくるのは楽しいと思います!
ゼロからのスタートに変わりはないですが、弊社は金型屋なので、初期投資が少なく済むという利点があります。商品を作る上で、金型代というのは商品を開発する投資の中でたいへんウエイトが大きいのです。その点で、金型を自社で製作するので安価に済むのは有利ですね。

--なるほど。それはいいですね。
メガネ業界がお互いの得意な特色を出し、協力し合えば、鯖江はもっと盛り上がると思いますね。

金型作りの現在と未来

img7.jpg金型の製造風景。-- 一つの金型で完成するまでにどのくらいかかりますか?
作るものの大きさや複雑さによりますが、早ければ注文を受けて4~5日、長いと2ヶ月くらいかかりますね。実際に型を作る作業よりも、どんな型にするかという企画やデザインに時間がかかります。



img9.jpg以前の金型作りでは、なくてはならない電極。実際の眼鏡の形をイメージして、型を作ります。 --金型作りの難しさはどういうところにありますか?
例えば、「こんな形を作りたい」と思ってそっくりそのまま凸を凹にしたような形状ではうまくいかないんです。成形していく段階で冷えて寸法が変わってしまうので、それも考慮して型を作らなくてはいけません。成形の時に出てきた形状とイメージする形状のズレを意識しなくてはいけないのが一番難しいところですね。どのくらい縮むかというのは、使う素材によっても違うので、その辺は長年培ったコツが必要だと思います。

-- 一人前になるのにどのくらいかかりましたか?
私は先代社長の甥なんです。だから中学2年生の頃から休みの日は手伝いをさせられてまして、夏休みや冬休みは毎日ですよ。だから自分の中でいつから正式にこの仕事に就いて、いつ1人前になったかの自覚があまりないんです。今はパソコンを使って金型のモデルを3Dで作成し、数値化するやり方で金型を作るんですが、このソフトを使いこなせるようになるのが難しい。最低でも3年は掛かりますね

img100.jpg放電加工を行う機械上に電極を取り付けた状態--デザインにはソフトを使うんですね。
今はそれが一般的です。パソコン上でデザインができるようになりました。昔は手作業で、どんな形にするかという原型(電極)凸の部分を作って、それを基に樹脂を射出する型凹の部分を作っていました。電極を金属に投射して型を彫っていくのです。放電加工と言って、電極と彫っていく金属に電気エネルギーを加え、その時に発生する放電エネルギー(雷と同じ状況)によって金属の表面を微細に除去していく加工法です。時間がかかり、職人の技術に頼るところが大きい作業でした。今はパソコンで作ったデータをマシニングセンタに入力することで電極を作ることができ、納期も格段に早くなるし、修正も簡単、確実な型を作ることができます。

img103.jpg放電加工に取って代わったマシニングセンター。--便利ですね!
ソフトを導入したり、初期投資がとても掛かるので、3Dモデルで型を作っている金型屋は県内でも少ないです。そのため、昔の型作りのやり方しか知らないメーカーさんにとっては、パソコンが描いた3D映像だけだと形状のイメージがつきにくいようで、そのギャップを縮めていくのも今後の課題ですね。


img101.jpg正確に金属を彫り込む刃先。数十種類から適した刃先を選びます。--便利になる反面、デメリットもあるんですね。
機械よりも、手づくりの方が味があって良いという声も頂きます。私自身、30年間手作業で金型作りを鍛えてきたので、何でもできてしまうマシニングセンタの加工を目の当たりにした時はショックでした。でも、どちらが良くて、どちらがダメということではないと思います。ただ、海外と競争していくには、職人の技をある程度、機械化をして加工技術を次の世代へ伝承していくことも大切なのかもしれませんね。

all.jpg今では使わなくなった昔の電極

img5.jpgパソコンで作業中なのは、工場長の井上治さんです。--井上さんはパソコンでどのような作業をされているのですか。
今、私が使ってのはCAD/CAMというソフトです。違いは3Dの製品モデル設計をするのがCAD、CADのモデルをマシニングセンタで実際に彫っていくためのプログラムやプロセスを生成するのがCAMです。普通CAD担当、CAM担当に分かれて作業をする会社が多いのですが、ここでは僕が両方を担当しています。

--井上さんは、もともとパソコンに強かったのですか。
実は、私は14~15年前に名商大を卒業したのですが、当時まだ、携帯電話やパソコンは一般家庭には普及しておらず、ワープロや手書きで文章を作成していた時代にPOWER BOOK100という白黒液晶のノートPC(今では骨董品)でエクセルやワードの基礎を習いました。折りしも、バブル経済がはじけ就職氷河期に入り、両親からは「そんなもん使って将来、就職に就けるか!」と叱咤され、他の大学の先輩や後輩からは「変わり者」や「パソコンオタク」と呼ばれました。そのときのゼミの恩師で、現在では「eラーニングの父」として 大学教育界で著名な中嶋航一先生(現在は帝塚山大学の教授に)から、レポートや課題はすべてフロッピーディスクに入れて提出することが求められ、週末になるとアルバイトから帰ってキーボードを叩き、レポートや研究課題を作成する日々でした。

時代が変わり、今やパソコンなどのハードウェアは生活に無くてはならないものになりましたが、あの時代に他の人が経験できない教育を受けることができてよかったと思いますし、大学まで行かしてくれた両親にも感謝したいです。現在、業務でCAD/CAMというソフトウェアを使いこなすことで、製品(モデル)を金型にレイアウトしたときの問題点を可視化することができるので大変役に立っています。また、工具メーカーさんのおかげで加工の方法やプロセスが改良され、作れるものも格段に増え、複雑な加工ができるようになりました。これからも着実に進化して、顧客が満足できる商品づくりに貢献したいと思います。

--今日はどうもありがとうございました!

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玉田 隆則 Takanori TAMADA
前澤金型 取締役
金型職人
生年月日: 1965年6月28日

井上 治 Osamu INOUE
前澤金型 工場長
CAD/CAMオペレーター
生年月日: 1974年5月10日

社名: 株式会社前澤金型
1979年創業/従業員数10人
http://www.maezawa-mold.jp/