鯖江メガネファクトリー

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HOME > ゲンバシュギ > 005 山下定雄(切削小ネジ加工職人)

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(株)フクオカラシは、旋盤・マシニング・専用加工機による金属の精密切削加工を行うメーカーだ。その高い精度と安定した品質は様々な分野で高い評価を受けている。
ここで、旋盤の職人として腕を揮っている山下定雄氏(以下 山)と福岡幹人社長(以下 福)に、仕事に対する考えや精密加工の技術について語ってもらった。

「大きな喜び」よりも「瞬間的な喜び」を

まず、この会社に入って職人という仕事を選んだきっかけを教えてください。

山)私は昭和40年に入社以来、ずっとこの会社に育てて頂きました。
若い頃は、機械とは時計や蓄音機などの事をいうのだという固定観念があったのですが、この会社の工場見学で自動旋盤が動いているのを見た時、自分の中の機械の概念が大きく覆されました。こんな機械を運転して、ものづくりができる仕事に就けたら幸せだろうなと思ったのが、強く印象に残っています。
それと「ラシ(螺子)」というのは「ネジ」の事なのですが、幼い頃、柱時計のネジ巻きが日課であった私にとって、「ラシ」という言葉に何か惹かれる部分があったのだと思います。

tool01.jpg検品に使う測定器具。整理整頓がきっちりなされている。-- フクオカラシでは、どのような仕事をされていますか?

山)メガネの部品でいうと、蝶番や蝶番のワッシャー、小ネジなどの製造を行っています。
機械は主に旋盤を使います。その機械のメンテナンス、刃物やドリルの研磨、切削条件の指定、品物の寸法検査などを行います。

-- 入社したての頃は、いろいろと苦労もあったと思いますが。

山)私が若い頃は、技術は盗めというやり方が普通でした。
先輩の後を付いて回って、仕事を見て話を聞いて覚える。この繰り返しでした。

job01.jpg-- 自分がそれなりに仕事が出来るようになったなと感じた瞬間は、どんな時でしたか?

山)自分の思いが機械に伝わったと感じる瞬間があります。
機械はもの凄い力を秘めているけれども、ただそこに鎮座しているだけで, こちらが指示・指令を出さないと動いてくれません。
工場は24時間稼働しますが、夜間は無人になるので朝まで安定した高い品質を保つため、その機械の構成と削る材質、工具の選定と研磨、時間経過による摩耗の予測、そして切削油、切削条件、気温の変化等、様々な要素を考慮する必要があります。
非常に難しいですが、これらの要素が上手くマッチした時、切削面(削った表面)が「虹面」という七色に輝く面になるんです。これが出た時、機械と一心同体になったという感覚を覚えますね。この機械と、そこそこ仲良くなれたかなと感じれる瞬間です。
寸法や形状が合っているのは当たり前で、そこからいかに見た目にも美しく仕上げるか。「品」のある製品。目指す所はそこですね。

-- それが、日々のものづくりの中でのこだわりになっているのですね。

山)そうですね。私は、大きな喜びよりも「瞬間的な喜び」が好きなんです。

-- 瞬間的な喜び、ですか?

山)自らの手で良い物が作れたからといって、いつまでも喜びに浸っているのは、キライなんです。良い物が出来た事に対して、喜びながらも、果たしてこれがベストな方法であったのかと自問自答を続ける姿勢や気持ちが大切だと思うんですね。自惚れることなく進む事がとても大事な事なんです。

-- これから挑戦していきたい事はどんな事ですか?

山)最近は難削材が多いので、即座に適切な切削条件を出し、もっとスピーディーに良いものが出来るように努力していきたいと思いますね。

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失敗と対話する。

--山下さんにも後輩の職人さんがいらっしゃると思いますが、これだけは負けない事ってどんな事ですか?

山)コンピューターのように、ただ解答を出して終わりではなく、自らが問う姿勢を、常に持ち続けている事です。

福)山下さんは勉強熱心で助かっています。
今主流のNC旋盤は、コンピューターで数値制御するので、マクロプログラムというものが必要なのですが、山下さんは、ぶ厚い参考書を酒の肴にしながら解読して、マクロプログラムを作ってしまいました。今でも、若手の現場作業員が、そのマクロプログラムを使って作業しているんです。

--すごいですね!やっぱりお酒は必要なんですか?(笑)

山)そうですね~ やっぱり友達ですね(笑)。
やけ酒は飲んだ事ないですけどね。適度な量は、何て言うか頭の発想を柔らかくしてくれるんです。

福)ただ、漠然と良い物を作るだけではなく、「+α」。物を作る機械についても勉強を怠らないという姿勢が、会社の大きな力になっていますね。

img01.jpg--では、今の若者に向けて何かメッセージをお願いします。

山)自分のやって来た事を振り返ると、真似ることが大事だと思います。
ただ、本質を理解しようとせず、その通りに真似るのは、猿真似になってしまいますけどね。
「真似る」は「学ぶ」の第一歩だと思うんです。
そして、仕事の中で今までのやり方を見直さなければならないのでは?と思う事も出てくると思います。そういった新しい考えとこれまでの伝統が上手く融合して、新しい伝統を作っていければ良いですね。

様々な実験を繰り返して「金」を作り出そうと試みたけど、結局、作り出す事が出来なかったという話がありますね。
しかし、そのプロセスの中で、プルトニウムなどのいろいろな新しい物質が発見されたと聞いています。
お客様に迷惑の掛かる失敗は良くないけれど、失敗した事や物と対話出来るようにならないといけませんね。失敗は、自分に何を語りかけようとしているのか。
私だって嫌な事は早く忘れたいですよ。でも、あえて分析する姿勢が自分を成長させる大事な事だと思いますね。

--今の若者はそういう事が苦手だと思われますか?

山)そうですね、NC旋盤でも、作業を失敗してしまうと、すぐにそのプログラムをリセットしてしまうんですね。でも、そうじゃなくて、どこが悪かったのか、もう一度プログラムを見直して良く考えてほしいと思いますね。

--最後に、あなたにとって「ネジ」とは何ですか?

山)自分をここまで育ててくれた先生ですね。お客様からより難しいものを要求されると、自分自身も試行錯誤を繰り返す。 「良き指導者」だと思います。

--やはり天職だと思われますか?

山)そうですね。しっかりとした経営理念を持った経営者に巡り遇えた事。そして、ずっとこうしてものづくりができるということは、何よりの宝物です。

技術に限界なし

img02.jpg創業からフクオカラシに息づくものづくり精神を、福岡社長はこう語る。

福)今のNC旋盤は、カム式と違って全て数値制御になっているので、回転数や送りもさることながら、どういうツーリングにするか、要するに刃物の動かせ方次第で切削面が全く違う仕上がりになったり、加工秒数にも違いが出ます。だから今やっている事も、一番効率の良い方法では無いかもしれない。答えは一つじゃないんです。向上心さえあれば、もっと色々な可能性が広がります。
会長(創業者:福岡昇氏)は、常々、「技術に限界なし」と言っています。自分が努力すればするほど、技術を磨けば磨くほど、それが製品に現れるんです。

簡単に削る事が出来る物は、他社でも出来ます。だから、他社が真似できないようなものを作って、付加価値を付けていくことが大切です。 そういった自社でしか出来ない技術を、メガネの部品にもフィードバックしていければ良いですね。


創業者の「技術に限界なし」理念が脈々と受け継がれているフクオカラシ。 精密部品であるが故に表には出ない。しかし、物は小さくても、小さいだけに欠かせない役割がある。それは、気付かないだけで、私達の生活にありふれているのだろう。私達は、もっとホンモノを見極める眼を養わないといけない。そうすれば、ジャパンメイドの素晴らしさを再確認出来るのではないだろうか。<了>

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山下 定雄 Sadao Yamashita
業   種:切削小ネジ加工職人
生年月日: 1948年 3月24日
社   名:株式会社 フクオカラシ
H    P: http://www.fukuokarashi.jp
1948年創業/従業員数100人