鯖江メガネファクトリー

ゲンバシュギ

 
 

先月のメガネザンマイでご紹介した、「めがね会館」。リニューアルに合せて新しくなったメガネミュージアムには一人の案内人がいらっしゃいます。水嶋實英氏は現役を引退された元メガネ職人さんで、その知識を語り部として私たちに伝えて下さっています。とても気さくにお話ししてくださる水嶋氏は、先日75歳のお誕生日を迎えたばかりの大ベテラン!眼鏡工場が次々と生まれた当時のお話や、昭和初期のメガネ作りを分かりやすく教えていただきました。

「掛ける身になって作れ」―現役の頃のこだわり。


--水嶋さんはいつ頃からこちらのミュージアムで語り部をされているんですか?

65歳でめがね作りを引退してしばらく別のお仕事をしていたんだけど、今回のリニューアルに合せて、語り部の仕事の話をいただきました。(H22.3.20リニューアルオープン)実はここに展示してある古い道具は私の父の代が使っていたものです。私も小さい頃から工場で遊んでいたので、愛着のあるものばかり。当時の眼鏡の作り方などを説明する語り部の仕事をいただき、本当にありがたく思っております。

--メガネ職人としてのキャリアはどのくらいなんでしょうか。

家がもともとメガネ屋だったから、小さい時から手伝っていましたね。中学を出てから本格的に仕事を始めて、17歳で家を継いだから職人歴は60年くらいかな。

--水嶋さんが職人時代に心掛けていたことはありますか?

親方に言われた「掛ける身になって作れ」ってことかな。自分がこの眼鏡を掛けると思うと、やっぱり丁寧に作るでしょ。1本1本、手を抜くなということ。

--水嶋さんは、メガネ作りのどの工程を専門にされていたんでしょうか?

当時は、一貫生産が主流だったから、メガネ作りの一通りの工程をしていましたよ。

--なるほど。今とはメガネ作りのスタイルが違うんですね。

40歳くらいから分業生産が始まって、それから僕は主にロー付(溶接)を専門にしていました。

--他にも今と昔のメガネ作りで違うことってありますか?


電気抵抗ロー付の機械。まぜくるロー付はページ下の写真を参照。

昔は仕事を覚える為に、住み込みで5年間ほど修行にいったんです。この間はひと月、散髪代程度の駄賃で働くんですよ。小学校4年生を出た子ども達も大勢いたね。当時は6年生まで行かずに働く子が大勢いた。他にもメガネの素材が違いますね。昔は赤銅といって、銅と金を混ぜた金属だったんです。柔らかくて加工もしやすいし、色付けもしやすかったんですね。今はチタンなど新しい素材もどんどんでてきたから、それに合せて機械や道具も変わってきたね。

--道具もかなり変わりましたか。

やっぱり使う素材によって変わっていくね。僕がしていたロー付の道具も、最初は石油を使う「まぜくるロー付」で、それから「電気抵抗ロー付」→「高周波ロー付」→今の「スポットロー付」はチタンもロー付出来るようになったね。

100年前のメガネ作りを再現。

--どうして貴重な道具を寄付しようと思われたのですか。

これらの道具はもともとは父の代ぐらいまで使っていたもの。大きいし、もう使わないから処分しようと思っていたんだけど、こうゆうところに展示してもらえるということで、寄贈したんです。本当に処分しなくてよかった!「こんな貴重なものよく残して置いてくれた」と皆さん喜んでくださる。また、これがきっかけでこういうお仕事ができるからありがたいね。

--この道具はいつ頃使われていたものなんでしょうか。

昭和の初めだね。

--当たり前ですが、今とは全然違いますね。どうやって使うのか想像できない道具もありますね。実際にどうやって使うのか見せていただいても宜しいですか?

 

1.合金する

まず、純銅95%と純金5%に多少のスズを混ぜて、メガネの材料赤銅を作ります。写真右上の銅板をハサミで容器(猪口)に切り入れ 、熱で溶かします。

昔は材料から工場で手づくりしていた時代だったんですね。

2.金属を成形する

溶かした金属を写真右の型(鋳型)に流し入れ、冷まして成形します。

3.金属を叩き伸ばす

固まった金属を金づちで叩いて細長くしていきます。ここまでは、鍛冶職人さながら!親方の工場に住み込みで修行する理由もうなづけます。

4.さらに細長く伸ばす

ここで大きな道具「シャチ」が登場します!先程叩いた金属を、道具の穴から通し入れ、ペンチのようなもので挟んで引っ張ります。穴から出てくる金属は、針金のようにキレイに均等に細くなっています!

引っ張る際、「ちょい、ちょい、ずー」の掛け声でひっぱります。

5.成形

いよいよメガネの形に成形してきます。もちろん手作業。写真はテンプルと耳当て部分です。耳当ての部分はどんな人の耳にもフィットするように、細い針金を数本寄り合わせています。今で言う、「形状記憶」のような柔らかさになります。

6.部品作り

部品は全部で3つ。鼻に当たる部分と、テンプルとフレームを繋ぐ、蝶番とネジ。なんと全て手づくりです。写真は、鼻に当たる部分。直接肌に触れる部分は、後ほど、肌に優しい金を貼ります。

もちろんネジも手づくりです。一本の番線を短くカットし、ネジの溝、頭のマイナスを切り、あっという間に3mmほどのネジに!ネジが出来るところを初めて見ましたが、とても精密!写真から伝わるでしょうか。

7.磨き

金属でできたヤスリで、摺り合わせるように磨いていきます。

8.組み立て、ロー付

そしていよいよ組み立てます。溶接が必要な部分は、ロー付で付けていきます。これが「まぜくるロー付」です。石油の入ったやかんのような機械の先に火をつけ、熱で溶接していきます。自分の息で風を送り、火力を調整します。どこまでも手作業…。

9.着色

染料には「緑青」や「胆ぱん」という染料が使われ、洗浄には、なんと大根おろしが使われたそうです!

10.完成!

遂に完成!右が、着色前、左が完成品です。

こんなに手のかかる当時のメガネは、一体おいくらしたのでしょうか…。

 

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  • 水嶋實英 Jitsuei MIZUSHIMA
  • 業   種:メガネミュージアム語り部
  • 生年月日:1935年3月10日

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