鯖江メガネファクトリー

ゲンバシュギ

 
 

株式会社アイビス高島は、正確な納期を実現するため、眼鏡作りのほぼ全工程を自社で行っている。眼鏡作りの要である「金型」という眼鏡の型も自社製というこだわり。今回は、そんな株式会社アイビス高島の代表取締役社長の高島禎二氏(以下:高)と、工場長であり自身は眼鏡の金型を担当する金型職人・畑中偉彰氏(以下:畑)に仕事について、また「職人」についてお話を伺った。そこには、眼鏡業界を目指す若い世代へ向けたメッセージが込められていた。

正確な仕事をする為に。


代表取締役・高島禎二氏

-- 御社では、眼鏡作りのほぼ全工程を工場でされているそうですね。

高)そうですね。眼鏡を作るのには、まず「金型」という眼鏡の部品の形をした型が必要ですが、うちではその金型から製造して、レンズを入れられる状態にまでして取引先のお客様にお渡ししています。

-- 金型というのは、取材をしていてよく耳にしますが、それを製造しているところを見るのは初めてです。

高)コスト面や手間を考えると、外注した方が良いので、こういう会社は珍しいと思いますね。

-- では、どうして金型を自社製造しているのですか?

高)うちは「納期を守る」ことにこだわっているので、外注をすると予定がずれ込む場合もあるし、自分たちが作ったものならお客様から色々な要望を言われても出来る限り対応できますからね。珍しい会社ですが、ものづくりをする上で妥協はしたくないので、自分では至って普通のことをしていると思っています。

-- なるほど。

高)今、鯖江の眼鏡は値段の面でも設備の面でも中国製品に押されていますから、どうしても差別化が必要になります。うちの会社の“売り”は納期と安心の品質だと思いますので、そこには徹底的にこだわって仕事をしています。あとは、小ロットでの受注など、大量生産の中国には出来ないことにも対応しています。

-- 中国製品の存在が、鯖江の眼鏡産業を厳しいものにしているようですね。

高)確かにここ数年受注がどんどん減っています。対応策として、どの業界もそうだと思いますが、人件費に気を付けています。リストラという形ではなく、少ない人数でいかに効率よく仕事をするかという方法を常に考えています。

-- 御社には全部で何名の従業員の方が働かれているのですか?



(上)金型は、眼鏡の素材である合金をプレスし成形する為の型。機械に図面をインプットさせて作る。 (下)様々な形の金型。

高)全員で78人です。このくらいの人数がちょうどいいんですね。多すぎてもいけない。ちょうどすべてに目が行き届く規模だと思っています。78人のうち、中国からの研修生が15人います。中国の方はとても要領がよく勤勉ですし残業も厭いません。日本人も負けていられません。

-- 少人数で、眼鏡の全工程をするのは大変ですよね。

高)うちでは、一人が一つの工程をするのではなく、何工程かができるように教えています。だから、日によって人手の足りない工程に手が空いている人を回すことが出来るんです。

-- なるほど。それはとても効率がいいですけど、管理が大変ではないですか?

高)最初の頃は本当に大変で、管理方法を試行錯誤する日々でした。そこで、どの工程が人手が足りないのか、誰が今どの工程で何の仕事をしているのかがはっきりわかるように、ホワイトボードにチャート表を作りました。こうすることで全員で工程を確認できるし、作業漏れが無くなるんです。

-- 先程見せていただきましたが、とても細かいんですけど分かりやすい表でした。それに、整理整頓もしっかりしていてとても仕事がしやすそうな環境ですよね。

高)こういう環境を作り上げるまでに時間がかかりました。しかしある程度出来ると仕事のプロセスが見えて管理がしやすいですね。従業員一人ひとりが今している仕事の流れを把握して、責任を持って仕事をしてくれていますよ。また整理整頓を徹底したおかげで、何がどこにあるかが一目瞭然です。これにより作業に取り掛かる時間が随分短縮できました。それでは、工場に行きましょうか。

金型職人・畑中氏にインタヴュー

-- 今は、何をされているところですか?


眼鏡作りの要である金型も、最後は職人の手作業で仕上げられる。

畑)金型の仕上げをしています。機械で作っていくのですが、どうしても最後は人の手が必要です。カーブや見た目の柔らかい感じは、長年培った感覚で削って出てくるものです。

-- 一つの金型で完成するまでにどのくらいかかりますか?

畑)金型の大小にもよるけど、大きいものなら機械で8時間、それからヤスリなどを使って削る手作業の仕上げに3〜4時間かかります。

-- メガネ業界に入って何年目ですか?

畑)34年目になるかな。


金型職人・畑中偉彰氏

-- ベテランですね!

高)でも、今でも失敗もするんだよ(笑)。眼鏡によって金型も違い、同じものがないからね。

-- そうなんですか。

畑)機械の性能が良くなった分、眼鏡の形も昔よりかなり複雑になってきているから難しい。今の眼鏡の形は、昔の技術だったら「規格外」にして「これは作れない」と言ってたものも多いね。

-- 一人前になるのにどのくらいかかりましたか?

畑)10年…位かな。でもそれは人それぞれだね。今では、新入社員が入ると、大体1カ月くらい働きぶりを見ていると成長するか、あまり向いていないかが分かるね。
高)成長する人は、一つ仕事が終わると「見てください!」ってコミュニケーションを取りにきてくれるんだよね。


社内は整理整頓が行き届いています。これによって作業スピードが大幅にアップするのだそう。日々の作業工程を掲示するホワイトボードなど、社長の細やかなアイデアに頭が下がります。

--なるほど。

高)今、眼鏡業界は厳しい状況だし、眼鏡作りはこうやって油にまみれたりするから、なかなか若い人が入りたがらない業界だし、入っても長続きしない人も多い。だから、現場は高齢化が進んでいます。せっかくの地場産業だから、若い人もどんどん後に続いて欲しいね。

--眼鏡作りに向いている人ってどういう人でしょうか?

高)器用な人かな。でもそれは手先が器用ってことじゃない。頭が器用ってことですね。失敗しても次の手段がすぐに思い付けるような頭の柔らかい人だね。

--では、この眼鏡業界を志す若い人にメッセージを!

高)もっと欲や夢を持ってほしい。これは眼鏡業界だけに言えることではないけど、もっと「こうしたい」「こうなりたい」って欲を見せて欲しい。あとは、会社の皆とコミュニケーションを取って欲しいね。

-- 最後に今後の展望をお願いします。

高)自社ブランドを作ってみたいね。でも、ブランドを作ると言うことは、うちのお客様(他社ブランド)とライバルになると言うことだから、なかなか難しいね。あとは、これからも「管理職無し」の作業を目指したいですね。今日工場を回ってみて、机に向かってばかりの人がいなかったでしょ?うちは管理職とはいえ、眼鏡の工程もこなしています。私は技術者も作業者も事務員も皆が眼鏡作りに携わる「職人」だと思っています。これからも皆で協力して良い眼鏡を作っていきたいですね。

--今日はありがとうございました。

 

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  • 高島禎二 Teiji TAKASHIMA
  • 業   種:株式会社アイビス高島
  • 代表取締役
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  • 畑中偉彰 Yoshiaki HATAKENAKA
  • 業   種:株式会社アイビス高島 工場長

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