皆さん、今、身の回りにある製品を何か一つ手に取ってみて欲しい。おそらく、そこにはホーニング加工が施されている。近頃では眼鏡にもこの加工がされていることは珍しくない。ホーニング加工を専門に扱う、有限会社 井上商会の代表取締役・井上道彦氏(以下 井)。ホーニングとは?職人とは?社長にお話を伺った。
オリジナル、無限大。
--まず、お仕事の内容を教えてください。
井)メガネのホーニング加工、レーザー加工です。
--ホーニング加工というのは?
井)主に細かいガラスのビーズを使い、それを吹き付けることで、メガネの表面をマットな状態に加工する方法です。元々は、船底にこびりついた貝を砂で打ち付けて取り除いたのが、発祥なんですよ。。
--研磨剤(以下 メディア)にはどのくらいの種類があるんですか?
井)うちでは、お客さんの仕上がりの希望に沿って、いろいろなメディアを調合して独自のものを使っています。だから、メディアの種類は、ほぼ無限なんです。
--ブレンドの仕方やメディアの種類によって、仕上がりは大きく変わって来るのですか?
井)全く違います。メディアを吹き付けるときの噴出の形状でも仕上がりは違ってきます。機械をいくつか組み合わせて加工することもあります。
--仕上がり方も無限なんですね。
井)一言にホーニングと言っても、奥が深くて、目が粗いか細かいかだけではないんです。ガラスに細かい文字が彫れたり、色の見た目を薄く出来たり濃く出来たり…。そういった表面のデザインとしての見た目のホーニングもありますし、滑り止めなど、機能としてのホーニングもあります。例えば、医療器具に使われたり、刃物や、ガラス窓、デジカメ、携帯電話などなど。気がついていないだけで、身近な商品には、ほとんど使われているのがホーニング加工という技術なんです。
--工場内はすごくすっきりしていますね。機械も思っていたよりコンパクトで驚きました。
井)私の性格で、仕事場が汚いのは嫌なんです。ホーニングというのは細かい砂を扱うから、本当は砂が舞って、パソコンなんかの機器類はすぐダメになってしまうんです。出来るだけ仕事場がすっきりした状態で使えるように、床下に排気パイプを埋めたり、私が改良しました。
--社長ご自身で改良したんですか?
井)それだけじゃないですよ。機械も、本体は業者から、購入したものですが、部品は私がオリジナルのものを作っています。私の家だってそうですよ。いかに家が広くきれいに見えるか、視覚効果を利用して、構造を考えました。自分自身が働きやすいように、住みやすいように、何でも自分で出来るものは、考えて作ってしまえば良いんですよ。
良いものを作るには。
--この眼鏡業界に入ったきっかけを教えてください。
井)もともとは、眼鏡とは全く関係のない大手繊維会社のサラリーマンだったんです。その時に身体を悪くして、会社を辞めました。それから、鯖江の地場産業である「眼鏡」に改めて気づいて、この道に進みました。最初は何もかもが初めてで、お金も、儲かる見込みも何もない状況でした。しかし、何も知らないからこそ、逆に変な先入観というようなものはなかったですね。どうすれば良いものが作れるのか。ただそれだけでした。
--たくさんの工程がある眼鏡づくりで、なぜホーニング加工を選ばれたのですか?
井)ホーニングというのは最後の最後の仕上げなんです。だから、ホーニングは目で見て、そのときが勝負なんです。自分の力だけで勝負が出来る工程だと思ったからですね。
--それから、ずっと眼鏡業界でホーニング職人としてやってこられて、今でも苦労されていることはありますか?
井)やはり、このご時世ですからね。まずコストの話から入っていくお客さんもいらっしゃいます。しかし、そういったお仕事はお断りしています。きちんとした仕事をする為には多少のコストは掛かります。まず良いものを作って、それからいくら、というのが正しい商売の仕方だと思っています。
--お仕事をしていて、こだわりはありますか?
井)先程も言ったように、ホーニングというのは最後の最後の仕上げです。その前段階の磨きが甘かったら、一度返してでもこだわります。ホーニングを専門に扱っている会社というのは市内でもなかなかないんです。おかげで、ホーニングに関してはうちを指定してくださっているメーカーさんも少なくないんですよ。
--本日はありがとうございました。最後に、社長にとって眼鏡とは?
井)むずかしい質問ですねー(笑) 私自身、眼が悪いので、日常欠かせないものであり、自分をアピールするための道具の一つにもなってます。 しかし、なにより私にとって「メガネ」は、サラリーマンから「職人」になる転機を与えてくれたもの。大変縁深いものです。