鯖江メガネファクトリー

ゲンバシュギ

 
 

メガネ用語「モダン」。あまり聞き覚えのない人が多いかもしれない。メガネの、ちょうど耳に掛かるプラスチック部分だ。メガネ装着時はあまり目立たないが、メガネがファッションの一部として捉えられて来た今、さりげないこだわりを色や形で表現できる部分と言える。モダン成形の技術を持つ、有限会社 オプティック・アマヤの社長・天谷英介氏(以下 天)に、お話を伺った。

こだわりは“色”


--まず、お仕事の内容を教えてください。

天)メガネの耳にかかる部分、プラスチック部品である「モダン」を作っています。

--具体的には、どういった技術なのですか?

天)射出成形という方法で製造しています。プラスチックの板材を削って形を出していくのではなく、米粒ぐらいのペレット状のプラスチック材料を高温で溶かして、金型に流して形状に固めるという方法ですね。 また、プラスチックが固まる前に長いピンが金型の中に挿入され、固まってから抜かれ、製品に穴が開けられます。眼鏡に組み立てるときに枠に挿せないとだめですからね。

--射出成形だと柄は全て違ってくるんですか?

天)柄はなくて単色になるんですよ。色は、非常に沢山あります。粒状のプラスチックを熱で溶かして練って型に流しますから、白と赤の粒を混ぜて溶かすと、ピンクになるというように、配合しだいで沢山の種類の色を出すことができるんです。 ”色”に関しては、多様化しています。他の人と同じ色のメガネは掛けたくない、綺麗な色、服に合う色というようにニーズも多様化してきて、昔と比べたら色の種類はかなり多くなっていますね。柄がついているものについては、後で表面に染色をしているんです。

--成形時に金型を使うということで、形状もいろんな形があるんですよね?

天)メガネのモダンっていうと、だいたいこう曲がった形を想像しますが、今は枠のデザインに合わせて先のまっすぐな形とか、分厚くてフィット感良いものが人気があるように思えますね。 デザイン的に高級感を生むために金具(チタン)などがついてたりもします。射出成形で、プラスチックを溶かした状態の時に入れ込むので、取れないですよね。それを専門用語では、「インサート成形」といいます。接着剤でつけると取れちゃうことがありますからね。

--そういった技術も御社で出来るんですか?

天)はい、これだけではないですけど。やはり当社でこだわっているのは色ですね。当社は、この分野では一番色バリエーションを持ってるんではないかなと思うくらい、豊富な種類があります。色って結局、無限大にできますよね。

様々な形状・色のモダン。

--カラーバリエーションを豊富にするという点で、苦労されたことはありますか?

天)色って人の感性によりますからね。もうちょっと赤いものが欲しいといっても、どれくらい赤いのかとか、透けてるのか透けてないのか、透明度も色々ありますし、パールが入ってるか入ってないか、乳白色なのか。それに蛍光灯の下と太陽の下で見るのとでは見え方が違ったりもしますしね。紙に印刷された色見本の色と一緒にしてほしいといっても、プラスチック素材だと色の再現はかなり難しいです。お客様が満足する色をできるだけ再現するのには苦労しますが、出来たときは凄く達成感がありますね。
新しく色のサンプルを一種類作ろうと思うと費用も掛かりますし、材料の無駄も出ますから、できるだけ当社の色見本を使って決めて頂くことがベストですね。でも、だいたいお客様は「今あるもの」は欲しくないんですよ(笑)。モダンは品質でこれだということがほとんどないので、市場に出ないとその色が売れるかどうかわからなくて難しいです。お客様もギリギリまで悩むんですね。

また、モダンはメガネを掛けてしまうと髪に隠れて見えなくなってしまうので、付いてさえいればいい、と、少し前までは、おまけみたいに思われがちでした。だから発注が最後になることが多いです。モダンは素材自体に色が練りこんでありますから、色が決まらないと製造作業をスタートできないんですよ。早くても一週間はかかりますし、ちょっと凝ったものだと2、3週間は欲しいんですけどね。

でも、やはりお店で陳列されているものをみると、パッと見て一番最初に目に入ってくるのはプラスチックの色の部分ですよね。メタルフレームなんかだと、特にモダンが印象を決める事が多いです。だから10年前くらいから、メガネのデザインもプラスチック部品に力を入れてくるお客様が多くなってきました。だから今はやりがいがありますよね。思い入れを持って来てくださるお客様に対しては、やはり応えたいです。

 

人が好き

--モダン専門で始めた理由は?

天)私は2代目なんですけど、大学を出て最初は別の会社に就職して勉強してたんです。その頃、家業の主力は「砂打ち」といって非常に細かい砂やガラスを吹きつけ、金属に傷をつけることで、模様を出すという工程をしていました。それとモダン成形の2つをしていたんです。 その時に、働いている方達が随分遅くまで作業をしているのを見て、会社として力を入れていくものを一本に絞った方がいいと思いました。また、今と同じことをやっていてもいけないとも思い、「砂打ち」を止めて、モダン成形一本にしたんです。その為に投資もしなければなりませんでしたけどね。

--この業界でがんばっている若い人に対して何かメッセージはありますか?

天)私も工学部出身で、もともとプラモデルとか模型飛行機とかを作るのが好きだったんですよ。今の子たちは、ゲームとかは得意だと思うんですけど、物というのは買うものであって、作るものだとはあまり思ってないんじゃないでしょうか。そういう「物を作る喜び」というのを知って欲しいですね。
メガネってなくならないとは思うんですけど、企業としてどう残っていくかが難しいと思うんです。けれどニーズに応えていけば需要はあると思うんです。だからがんばって受け継いでいってほしいですね。

--このお仕事の魅力ってなんでしょう?

天)私は人が好きなので、営業などでも色んな人と知り合えるのがいいですね。人との繋がりができていくのが嬉しいです。飛び込みのお客様でも、誰々にここを紹介されて…と言われるとやっぱり嬉しいですよね。そういうことの積み重ねが、企業としての強さにも繋がっていくと思うんです。

--最後に、あなたにとってメガネとは?

天)私は、日常はメガネを掛けてないんですけど、余暇にテニスをしたりもしているのでその時サングラスを掛けます。日が射してくるとサングラスは必需品なんです。メガネは、「ファッション」ですかね。やっぱりテニスウェアに栄えるかっこいいのが欲しいんですよ(笑)。

 
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  • 天谷英介 Hideyuki AMAYA
  • 業   種:成形モダン職人
  • 生年月日:1965年7月27日
  • 社   名: 有限会社 オプティック・アマヤ
  •        1975年創業/従業員数 11 人
  • ホームページ:http://www.sawayaka-g.jp/kumiaiin/glasses/post-17.html#more

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