鯖江メガネファクトリー

ゲンバシュギ

杉本一江
鋳造職人 杉本一江
 

鋳造という技術により、メガネの部品はもとより、アクセサリーなどの装飾品も手がけるアイキャスト。ゼロから会社を立ち上げ、様々な技術を開発して来た、杉本一江氏(以下 杉)は経営者であり、母としての顔も併せ持つ。今回は、そんな彼女の経験、仕事内容についてお話を伺った。


全てゼロからの挑戦

-- この鋳造のお仕事を始めたきっかけを教えてください。

杉)最初は、全く何の経験もないまま、メガネのロウ付けを始めました。鋳造は、ある会社の人が始めた事業なんですけど、難しくって上手くいかなかったみたいです。それでちょうど私(杉本氏)も何かいい仕事ないかなと探していたところで、その方から「やってみんか?」と言われて、軽い気持ちで「やる」と言ったのがきっかけでした。これが最大の失敗でしたね(笑)。

-- ロウ付けの仕事はずっとしてたんですか?

杉)その前にも、色々やってきたよ。実家が散髪屋だったので、最初は散髪屋を。次に、喫茶店をして、スナックをやって、レンズ屋に、ロウ付け屋と…それで、今のキャスト(鋳造)屋に。

-- アクセサリーも作っているということなのですが、最初はメガネの部品から始めたんですか?

杉)そうです。でも、最初は機械のことも全く分からん、メガネの専門用語も知らん。「テンプルって何や?」といった状態でした(笑)。その時、思ったんです。「教えてください」「ありがとうございました」「お願いします」はタダや。だから、分からないことはとにかくお客さんに聞くようにしましたね。お金が掛かるのは、電話で聞く時の電話代くらいでしょ。これは、今でも生きてますね。とにかく分からないことだらけで、最初の一年は、ほとんど畳の上で寝た事が無いくらい苦労しましたね。

-- 鋳造の工程について教えてください。

杉)まず、金属で原型を作り、その金属原型で、量産用のゴム型を数個作ります。次に、ゴム型に溶解したワックスを流し込み、ワックスが冷めたところでゴム型から外します。これが、WAX型です。このWAX型をクリスマスツリーみたいに、芯棒という物にハンダごてで50〜100個取り付けていきます。それにステンレスの丸い筒をかぶせ、石膏を流し込みます。石膏が固まったら、12時間掛けて電気炉の中でワックスを燃焼させて、その上、石膏に強度をつけます。石膏に空洞が出来た中へ、今度は地金の溶解したものを流し込みます。これで一応、鋳造の工程は終わりです。その後、ツリー状のものを一個一個切り離しバレル研磨して、検品、修正、もう一度バレル研磨をして、出荷となります。

-- 上手い具合に出来てるんですね。では、鋳造による成形とプレスによる成形の特徴の違いは何ですか?

杉)鋳造は細い物や立体的な造形のものが得意です。プレスの場合、立体的な造形の物の場合は、いくつも型をつくって、何方向からもプレスをかけなくてはいけません。そうすると金型代などのコストが高くなります。でも、鋳造の場合は、型は一つで出来てしまうので、コストを下げることが出来るんです。また、プレスで出来ない形でも、鋳造なら可能な場合があります。逆に、平面や単純な造形の物は、鋳造ではなく、プレスの方がきれいに仕上がるんです。

-- ここまで来るのに一番苦労したことは?

杉)全てゼロからだったので、全行程の研究で苦労しましたよ。中でも、ワックスの調合、ロウを流すためのゴム枠の研究は、とても時間を費やしましたね。それと、研摩の工程でバレルの中に入れるチップの調合と水の量、バレルにかける時間をずっと研究していましたね。仕事中には出来ないので、仕事が終わってから夜遅くまでやっていました。今でも勉強中やけどね。一生勉強。ものづくりに終わりはないわね。学校の勉強は方程式で答えが出るけど、「ものづくり」には答えがないですからね。

常に「?」を持ち続ける

-- ものづくりの喜びはどういった所にありますか?

杉)最近、ある人から仕事を受けたときの話やけど、その人は凄く細かい事を言うんですよね。なかなか納得してもらえない。でも完成した品物を見せた瞬間、「うわ〜っ!」と大声を出して、満面の笑顔で喜んでくれたんですよ。その人は心が真っ白な人なんやね。あの顔を忘れられんで、また仕事を受けてしまうんですよね(笑)。
そういったお客さんに巡り会うから、また挑戦ができる。もう一つランクが上のものを作りたいなと思うんですね。

-- ずばり、これだけは負けないものは?

杉)若い「あんちゃん」が好きやということかな(笑)。どういう意味か分かる?これは、我が子可愛さやね。おばちゃんにも二人の息子がいます。息子は何を言っても聞いてくれんけど、よその子ならおばちゃんの経験を話せば聞いてくれる。だから、若いあんちゃんには色んな事を教えてあげたいと思うんやね。また、息子がよそに行った時に同じように育ててもらえればなあ、という気持ちからやね。

-- 次世代へのメッセージをお願いします。

杉)なんで?どうして?っていうのをずっと追求していく事が大切ですね。一生涯が勉強やと思うこと。でも、鬱病になったらあかんよ。考えすぎてもあかん。その調整を上手くせなあかんよ。
後は、自分を表現すること。相手が上司でも言いたい事は素直にちゃんと言えばいい。そうでないと、今の世の中はやっていけんよ。なんでも「はいはい」じゃあかん。意見をきっちり言える強さを持ってほしいね。お客さん相手でも同じ。お客さんの言う事を全部聞くのではなく、お客さんに納得してもらえるように説明することが大切やと思うね。

-- 最後にあなたにとってメガネとは?

杉)私に「?」を常に持たせてくれるものであり、若いあんちゃんと一緒に居させてくれるもの。これから残していきたいと思う事は、(今も何人かうちで働いているけど)障害者の子らに、ここで仕事を覚えてもらって、社会で通用できる人に育てていく事と、どれだけの若いあんちゃんらをこの「鯖江の眼鏡の仕事」に就かせることが出来るかという事ですね。

メガネという仕事を通して、「教えられることは全て教えてあげる」という精神は、私達鯖江メガネファクトリースタッフにも十分伝わった。それは、経営者としての、また、母としての愛情の表れだろう。おばちゃん(杉本氏)パワーは凄い、そして学ぶ事が多い。

 
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  • 杉本 一江 Kazue SUGIMOTO
  • 業   種: 鋳造職人
  • 生年月日: 1948年10月31日
  • 社   名: アイキャスト
  •        1984年創業/従業員数11人
  •        鯖江市丸山町3丁目219-5
  •        TEL 0778-53-2820
  •        FAX 0778-53-283
  •        eyecast-1e@kj.ttn.ne.jp

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