鯖江メガネファクトリー

ゲンバシュギ

 
 

以前メガネザンマイで取材させていただいたメガネメーカー(有)オプトデュオ。鯖江市を拠点にし、国内でも屈指のオリジナルブランド「spec espace (スペックエスパス)」を発信しています。今回は、spec espaceの中でも売れ筋である『セルロイド』シリーズの職人西野正美さんにお話を伺いました。デザイナーから提案されたデザインを全て手作業で形にするお仕事をなんとお一人でなさっています。とても気さくなお人柄で楽しいお話をたくさん伺うことが出来ました!

40年以上のキャリア!




--今日はよろしくお願いします!今なさっているお仕事は、何をされているのでしょうか?

これは今、テンプルの丁番(フロントとテンプルをつなぐための部品)をかしめています(固定している)。丁番をいれるテンプル先端部を少し削り(座彫り)、そこに暖めた丁番をきちんと押し込みます。(焼き付け)きっちり入ったら今度は固定するための小さい穴を2つ空けます。ここに細いピン状の銀飾りを入れ、テンプルの裏からそのピンを潰して、丁番が取れないようにかしめます。(写真参照)

--こんなに細かい部分まで一つ一つ手作業なんですね。てっきり細かいところは機械でされているんだと思っていました…!

こんなに細かいのは機械では出来ないですよ。この丁番もこうやって電熱器で熱して、熱くなった部品をテンプルにはめ込むと、樹脂が溶けて部品が取れにくくなるんです。これは焼き付けって言って、昔からある技です。なかなか今の若手には出来ないんだよね。だから最近だと熱する代わりに、接着剤で止めてしまう。

--接着剤だと使っていくうちに取れちゃうこともありますよね。それにしてもなかなかアナログチックな機械が並んでいますね!

機械は全部、この仕事を始めた時からずっと使ってるもの。なかなか壊れませんよ。

--ずっとですか!西野さんはこのメガネ業界に入られて、どのくらいなんでしょうか?

45、6年かなぁ。

--お〜(一同)。一人前になるにはどれくらいかかりましたか?

それぞれの工程を習得するのにそれなりの時間がかかるものです。たとえばこの焼き付け1つにしても、6年はかかったね。今思うと、若いときはとにかくがむしゃらに仕事をしてましたね。生活もかかってから走り続けていたという感じ。今は肩の力を抜いて楽しんでやっていますよ。

難しいけど、どこまでやれるか。

--西野さんはどうしてメガネ業界に入られたのですか?


セル板から切り出されただけのメガネを、本当に最初から最後まで西野さんの手作業で作られています。

やっぱりメガネは地場産業だからね。鯖江、特にここ河和田は、漆器も有名だけど、漆器よりはメガネの方が絵心がなくても出来るかなぁってね(笑)。自分は絵を描くより、物を作る方が好きだったから。

--このオプトデュオというメーカーが立ち上げられてから今までは、オプトデュオのお仕事を主にされていると伺ったのですが、そのきっかけは?

先代の社長(創業者)と同級生だったんです。小さい頃からのご縁があって働いています。同じ地区なので、デザインが決まると、それが実際に製作可能かどうか相談に来られる。作り手として絶対無理な場合もあるので、その場合はこちらから修正案を提案したりもする。常に顔をつき合わせての話しができるので、仕事がやりやすい。

--オプトデュオさんは独特の立体的なデザインと複雑なラインが特徴ですが、デザイン側から難しい要望もありますか?

難しいけど、どこまでやれるかいつも挑戦だね。オプトデュオのメガネは立体感を出すためにあえて厚いセル板を使っているんだけど、これがなかなかやっかいな素材なんです。セルは硬いんです。プラスチックで最近の主流であるアセテートという素材に比べて、削るのに約2倍の時間がかかります。でもセルは型くずれが少ない、レンズを入れると縮んでレンズがピッタリフレームにおさまる、使っていくうちに顔に馴染んでくるなど利点がたくさんある。だけど硬いからデザイン通りのきれいなカット面、ライン、丸みをヤスリで削って出していくのが本当に難しい。でも実は私はこのヤスリがけが好きなんですよ。

--どうゆうところが?

数種類のヤスリから最適なものを選んで削るんですが、デザインどうりのラインや丸みは自分が今まで培ってきた感覚がすべて。集中して無心の境地になれるのがいい。

--なるほど。実際にどうやって削るのかを見せていただいてもよろしいですか?

 



私もセルフレームの削り作業を体験させていただきました!西野さんの滑らかな手つきを見ていると、とても簡単そうに見えたのですが…。残念ながらそう簡単にはいきませんでした。

続けられるだけ続けていきたい。

--オプトデュオのメガネは西野さんお一人で製造をされているんですよね。一人での製造にこだわっていらっしゃる?



長年の磨きの作業で西野さんの親指の爪はピカピカに!

メガネは作り手によって同じデザイン画のものでも仕上がりが全然違ってくる。磨きやヤスリがけという一つの工程だけを人に頼んだとしても、それぞれの人の癖がでてきて同じものに仕上がらないんです。だから私は自分で納得いく商品にするため全部一人でやります。

--大変ですね…!西野さん的に苦手な仕事はあるんですか?

うーん、苦手というより大変なのは最後の磨きかな。小さな傷を見逃さずきれいな光沢を出すために磨くのですが、セルに気泡やほこりがあると磨いているとそれが出てきてまた傷になってしまう。どのタイミングで磨き終えるかを見極めるのが大変。でも得意苦手はあってもどれも最初から最後まで気は抜けないよ。

--なるほど、さすが職人さん!

一般の方はデザインや色を見て選ぶ人が多いけど、プロは逆に細かい部分、たとえばフロントとテンプルの合口がピッタリと合っているかどうかなど、各部の精密さを見るからどこも気を許せないよ。1本でもいい加減な仕事のものがあると全部がだめだと思われる。一本毎にかける思いは全部同じ。メガネに(私の)名前も入っているしね。




『西野正美 手仕事』の刻印。実はこの刻印ももちろん西野さんの仕事!

--この技術を継ぐ人はいないんですか?

いないねぇ。なかなか厳しい業界だから簡単に薦められないしね。

--それでも40年続けてこられたのには理由があるんでしょうか。

やっぱり好きなんだろうね。毎日朝8時から夜7時まで、一日中ここで仕事をしているけど、苦にならない。1枚1枚に自分の思いを込めているから、それが売れていると聞くと嬉しいしね。

--今日は有り難うございました!最後に、今後の西野さんにとってメガネとは?

メガネとは…続けられるだけ続けていきたいものかな。一人でもたくさんの人が自分のメガネを掛けてくれたらいいね。

 

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  • 西野正美 Masami NISHINO
  • 業   種:メガネ職人
  • 生年月日:1947年11月19日

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