磨き職人の中でもピカ一の腕を持つと噂の山内さん。お父様の技を盗み、経験を積み、体で獲得してきたその技術は、目標としてきた父のそれを超えたと実感しているという山内さん。そんな山内さんの職人魂を教えていただいた。
とにかく早く、キレイに、質の良い商品をだす。
数多くの素材研究の結果のバフたち。より良い仕事をするために常に素材研究に暇が無い。
--まず山内さんのお仕事の内容を具体的に教えてください
フレームの加工キズの研磨、蝋付けのキズを落とす仕事をしています。ノーマルなフレームから複雑な形状の磨きまでどんなものでも磨きあげ、ちょっとした膨らみでもきれいにフラットにします。今、各メーカーは、とにかく中国製品との差別化をはかるため、品質を徹底的に追求します。拡大鏡で見ないと分からないような小さな傷もすべて消すように磨いて綺麗にします。
--この業界に入ったきっかけは?
もともと親父が職人として磨きをしていましたが、私が高校を卒業するときに大学に進学するか、家で仕事をするかで迷い、結局家を継ぐことに決めました。
--小さい頃から仕事場に来てお手伝いをしたりしたのですか?
いや、まったくしたことがないです!高校を卒業してから初めて磨きの道具に触れました。
--どういう仕事から始めたのですか?
素人ですから本当に簡単なことです。誰でもできることですね。父は仕事の手順を細かく教えてくれない。見よう見真似でやってみて、自分の体に叩き込んできました。
--そういった簡単な仕事からどれくらいして一人前になったという自覚をもつことができたのですか?
10年です。18歳でこの世界に入って、自分で一人前になったかなと実感したのは、27、8歳になったくらいです。
--それはどういう仕事ができたときに感じたものですか?
受注したあらゆる仕事に対して、自分で仕事の道筋を立てられるようになったときですね。つまりどの材料を使い、どんな磨き方をするかを計算できたときです。自分で判断ができるようになったとき初めて一人前だと感じました。ですから、そのころは時間があれば材料屋さんへ行って、上手く、早く、キレイに磨ける材料はないかと自分で探し回っていました。磨きというのは表面をキレイにすることだけではないんです。削り落とすことなんです。削り落とすのに、早く、失敗のリスクを小さくできる材料が必要なわけです。常に自分の足で探し回り、その材料を実際に試してみる、そうやっていくうちに、最善の磨き方が計算できるようになりましたね。
--それはやっぱり教えてもらうのではなく、自分の足で探すのですか?
そうですね。材料屋さんに頼んで、こんな素材でこんなバフをつくって欲しいと相談に行きます。とにかく固いものを作ってほしいんです。かといって、固くてキズをつけてもいけないんですけれども。矛盾しているんです。表面は柔らかく、でもある程度の荒さでキズを磨くことができる素材というものにはなかなか巡り会えません。もともと高校で繊維の勉強をしていましたので、素材に対する知識があったのは今の仕事に大変役立っています。たとえば「麻バフの中に、天然の柿渋を入れてほしい」という具合に、各々の素材の特性を理解して注文します。ちなみに磨きに使うバフは、全て天然素材です。化学繊維は摩擦熱で溶けてしまいますので。まだまだ自分の試したことのない素材があるので、そういう素材でバフを作って、磨きを追求したいですね。
--新素材の開発にも余念がないようですが、そういった士気の高さはどういった気持ちからくるのですか?
やっぱり、キレイにしたい。そして良い、質の高い商品を作りたい。その気持ちですね。
100%の仕事をする、ということ。
--仕事をする上で、お父様にこれだけは守れと教えてもらったことは何かありますか?
家族で職人の道を極めてきた山内さん。お父様の教えと、奥様の支えで今日も素晴らしい仕事に励まれている。
「納期には遅れるな」ということですね。全ての物ごとにおいて、時間を守ることです。こういった仕事は、時間を守らないと、その後のすべての段取りがくるってきますのでメーカーさんに迷惑をかけます。そうすればメーカーさんとの信用がなくなりますから。
--山内さんの仕事でのこだわりは?
そうですね。やっぱり、理想ですが「100%の仕事をする」ことです。なかなか人間ですから難しいのですがね。
--100%というのは具体的にどういうことですか?
メーカーさんからクレームがこないということです。ですから、複雑な仕事の場合には、あらかじめメーカーさんに削り方などを必ず確認に行きます。
--1日の仕事のサイクルを教えてください。大体何時に起きて、何時に終わりますか?
朝は、6時には起きて8時には仕事を開始しますね。終わる時間はまちまちです。納期前には夜中の2時3時になるときもあります。
--では一日どれくらいの数を磨きますか?
一般的なものは父や妻も合わせて一日2500枚ほどです。複雑な形状のものは私が担当し300から400枚ぐらいが精一杯ですね。磨き手が変わると微妙に仕上がりが違ってきますから、均一性を保つため一人で磨きます。複雑な場合には、一度原型をくずして磨いて、メーカーさんが希望する形にしていきます。時間がかかりますが、そうしないと完璧な形にならないんです。
--仕事で楽しい時ってどんな時ですか?
どうやって磨こうかなって攻略法を考えるときが一番楽しいですよ。複雑なものほど燃えますね。
--では、これからこの業界を目指す若者にメッセージをお願いします。
とにかく辛抱。ということです。どんな仕事でも辛いことがあります。そういった辛いことを辛抱して、乗り越えてこそ、今の自分がありますからね。そして体を使って、自分で学ぶことです。私自身、どの素材を使って磨くのがいいのか分からなくなった時があり、悩んで悩んで胃潰瘍になりました。でもそういう経験を経ることが成長につながると思うのです。
--ありがとうございました!