鯖江メガネファクトリー

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HOME > ゲンバシュギ > 008 若林理彦(メッキ職人)

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メタル枠の仕上げには、メッキによる表面処理加工がなされる。今回のゲンバシュギでは、様々な素材のメッキ加工に成功してきた「(株)美装ジャパン」で、創業間もなくから働く「若林理彦」氏(以下 若)にお話を伺った。

現場には「ゲンバの掟」がある

眼鏡業界へ入ったきっかけは?

若)眼鏡とは全く関係のない木工の仕事をしていたのですが、縁があって、この会社に飛び込んで来たという感じです。会社創業の約半年後に入社しました。これからの会社だという事は聞いていたのですが、特にこれといって理由は無いですね(笑)。

-- ものづくりをやりたいという思いはありましたか?

若)そうですね、デスクワークよりは、自分で手を動かす仕事が向いていると思っていました。

img03.jpgメガネを特殊な溶液に浸けて、電気をかけることでメッキする。-- メッキ加工というお仕事について教えてください。

若)メッキ加工とはメッキしたいメガネを特殊な溶液に浸け、その溶液とメガネに電気をかける事で、金やクロムなどを付着させます。この溶液の状態を一定に保つのがポイントで、例えば、朝と夜では溶液の性質が変わります。そのため、作業途中で溶液を入れて、調整します。また、溶液の温度を50~60℃で保つことや、溶液のPHを一定に保つことが大切です。
工場の中は、夏は暑く、冬は寒くて足のつま先まで凄く痛くなるほど冷え込みます。また、最近は、素材を有効に使うために、溶液の再利用もしていますね。

-- 修業中苦労された事はありますか?

若)メッキには、たくさんの種類の薬品を用いるのですが、私には、これまで聞いたことのない薬品ばかりだったので、それを覚えるだけで大変でしたね。入れてはいけない薬品を入れてしまったこともありましたし(笑)。 入社5年後くらいに、初めて電気メッキの2級試験を受けました。 試験には無事受かったのですが、その知識がすぐに現場で活かせるか、というと、そうではないんですね。
やはり、その現場には、その「ゲンバの掟」というものがあって、机上の知識だけではうまく行かない事も多いんです。また、自社内で出来たことが、他社の作業現場では出来ない事も、その逆もありますしね。

tool01.jpg100種類を超える薬品の組み合わせにより、さまざまな色のメッキが出来る。-- ちなみに薬品は何種類くらいあるのですか?
若)100種類以上あります。それらを調合して、一つの溶液ができるんです。
薬品は、使い方ひとつ違うと危ないですからね。本当に危険と隣り合わせの仕事です。

-- 今は、別の現場でお仕事をされているということですが?

若)そうですね。入社以来20年間メッキの仕事をしてきましたが、今は、製造部長という役職に就いています。お客さんの要望を聞き、現場に指示を出すという立場で、検品を含む調整役の仕事をしています。現場で働いている時は、何も考えずにメッキを流すことで精一杯でした。とにかく目の前の仕事をこなせば良いという思いでした。しかし、今は立場が代わり、良い製品を出し続けなければいけないと思っています。それは、お客さんと直接お話をし、お客さんに喜ばれる製品を提供しないといけないと思うようになったからです。
 だから、現場には厳しく言いますね。もちろん現場の気持ちも分かりますから、怒るだけではなく、褒める時は褒めますし、頭を下げる時は下げます。休日出勤をお願いする時には「申し訳ないけど、お願いします。」と頭を下げますから(笑)。 また、頑張ってくれた時には、「ありがとう。」とも言うようになりました。そうやって、部下と接するときは、メリハリを付けるようにしていますね(笑)。
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とにかくやってみる精神

-- ものづくりのこだわりはありますか?

若)「とにかくやってみる」という事です。依頼があって、即「できません。」という返事はしません。研究室の社員から、理論上で「出来ない。」と仮に言われたとしても、「一度やらしてくれ。」と言って、自ら試してみます。理論上では無理でも、やってみて出来る事もありますから。とにかく諦めずに挑戦するという事を大切にしています。

tool02.jpgドライバー(左3本)とルーペ。不良を極力少なくするために、検品は大切な工程だ。-- では、これだけは負けないという事はありますか?

若)当然、メッキを付ける技術は負けません。それに加えて、不良が出てクレームがきた時には、メッキを剥がして加工し直します。このメッキを剥がす事を「剥がし工程」といいますが、この「剥がし工程」の技術はもっと自信があります。いかにきれいに剥がすかという。それだけ失敗した経験が多いということなんでしょうね(笑)。 一本も無駄に出来ませんから。もちろん、不良はできるだけ出ないように一工程ずつ、必ず自分の目で確認するように指導しています。

-- 不良を確認する時に、とても細かい部分まで見なければいけないと思いますが、どうやって目を養っているのですか?
若)これはねえ、失敗しないと分からないんです。検品で不良が見つかった時に、現場の社員にその不良の部分を見せます。その時に初めて、自分の失敗に気づきます。そうして、次の日から同じ失敗をしないように確認するようになります。とにかく自分の目で見る事です。

-- 非常に気を張るお仕事ですね。気分転換はどのようにしていますか?
若)休み時間に、仲間をいじくることです(笑)。 部下にやるといじめになりますから。年上のおじさん達をいじくってストレス解消しています(笑)。

-- ものづくりの喜びは、どういう所にありますか?
若)他社ではできない技術を、我が社で確立した時は「よし、やったぞ。」と思います。
例えば、アルミの眼鏡の仕上げは、他社ではアルマイト処理というのをしています。これまで、アルミの上にメッキを乗せるのは、困難だと言われていたんです。しかし、先程も言いましたように、「とにかくやってみる」精神ですから、試してみたんです。開発3年目くらいでようやく、アルミへのメッキ加工に成功しました。この時は、ものすごく嬉しかったですね。

-- 誰もやろうとしない事に挑戦するのが凄いですね。
若)そうですね。自分でやってみないと分かりませんから、失敗するかどうかも。
頭を柔らかくしておかないと。失敗しても次のステップで上手くいく場合もありますから。それと、例え、一度成功しても、もう一度やってみると失敗したのでは駄目なんです。2回、3回と成功して、後輩などに伝えて、他の人が出来た時に、初めて技術が確立したと言えるんです。

img02.jpg-- 今後、挑戦したい事はありますか?

若)今は、アルミへのメッキ加工の事で頭がいっぱいですが、将来的には、眼鏡以外の異業種にも挑戦してみたいですね。それと、現場の大変さが分かりますから、部下がもっと働きやすい環境を作ってあげたいと思っています。例えば、ラインを簡素化し、歩く量をできるだけ少なくできないかな、と考えています。本当に肉体的に厳しい仕事なんでね。

-- 若林さんから、次世代へのメッセージをお願いします。
若)自分の非を認めて、人のせいにしない事です。自分に責任を持って、悪いことは悪いと認めて、謝る事。それと、あいさつをきちんとすること。やっぱり仕事というのは、他の社員とコミュニケーションをとって、心を開いて、楽しく仕事をする事が大切だと思っています。

-- あなたにとってメガネとは?
若)「人に喜んでもらえる物」です。これからも、少しでも高級感のある品質の良い物。人に喜ばれる物を作っていきたいです。

壁にぶつかって初めて分かることはたくさんある。「とにかくやってみる精神」で様々なことに挑戦してきた若林氏は、失敗もたくさんしたに違いない。しかし、それでも挑戦し続けるのは、やはり成功の喜びを知っているからだろう。経験を自分の糧にし、失敗も成功に変えるその姿勢は私達も見習いたい。 <了>

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若林 理彦 Toshihiko Wakabayashi
業   種:メッキ職人・製造部長
生年月日: 1965年 9月 5日
社   名:株式会社 美装ジャパン
H    P: http://www.biso-japan.co.jp/
1987年創業/従業員数46人