ここまでは、フレーム製造の職人達を見てきた。ただ、メガネはレンズなしではなし得ない。今回はレンズ製造を専門にしている（株）三興の坂下善輝氏（以下 坂）にお話を伺った。
お客様のこだわりが技術向上を支える
-- 眼鏡業界へ入ったきっかけを教えてください。
坂）前に勤めていた繊維関係の会社がおかしくなってきてしまって、職を探していたんです。その会社ではデザイン関係の仕事をしていたんですけど、今の会社でシルクスクリーン印刷の製販業務で募集があったので、デザインの仕事なのかな？と思いこの会社に入りました。その時は、眼鏡業界に入るという意識はありませんでした。そして、一年間ほど製版の仕事をしていたんですが、突然上司から「一週間くらいイタリアへ一緒に行ってくれ」と言われ、上司と二人でイタリアに行きました（笑）。それは、レンズ加工の新しい機械を導入するための研修でした。実は初めての海外で、少し嬉しかったんですけどね（笑）。
-- 突然イタリアですか（笑）。その後、日本に帰って来てからどうされたんですか？
坂）日本に帰ってからは、製版の仕事をしながら、夜はその機械と戦っていましたね。レンズ加工の知識は全くなかったですし、その機械の事を知っている人は誰もいなかったので苦労しました。分からないことは現地（イタリア）の人にメールで質問したりはしたんですが、（英語ということもあって）なかなか質問と答えが噛み合ないんですよね。それで結局、自分でいろいろ試すしかありませんでした。
普段使用している道具
-- 今のお仕事をもうちょっと具体的に教えてください。
坂）今は、サングラスレンズをフレームに合うように加工するのに、機械を制御する仕事をしています。ここで、レンズがぴったりフレームにはまるようにするのが難しいんです。レンズが大きすぎてはフレームにかかる力が大きくなりたわんでしまいますし、小さすぎてはレンズが簡単に外れてしまいます。ちょうど良い大きさに加工するのがポイントです。
-- 日々のものづくりのなかでのこだわり・ポイントを教えてください。
坂）お客さんに納得してもらえる物を作ることですね。１００％というのは無理でしょうけど、最低でも７０〜８０％は納得してもらえるように持っていきたいです。お客さんとタッグを組んで、一発で納得してもらえる物もあれば、何度もやり直すこともあります。こだわりがある人の要望をこなすのは、大変ですけど面白いですね。それだけこちらも試行錯誤をするので、技術も上がりますし、出来た時の達成感があります。
どんな仕事の中にも喜びはある
-- お仕事の喜びはどういったところにありますか？
坂）加工したレンズがフレームにぴったりはまった時は気持ちいいですし、嬉しいですね。
-- 逆に（レンズがフレームに）全然はまらない時もあるんですか？
坂）それはありますよ。どうしても合わない時は、一からやり直します。ちょっとずつ直していくと、結局時間が掛かって遠回りになることがあります。一番時間が掛かった時で、一週間くらいでしたね（笑）。その仕事はレンズカットの機械の構造上無理な依頼で、なんとかサンプルまでは作製できました。
-- では、坂下さんのこれだけは負けないものはありますか？
坂）う〜ん、それを今、探し中ということにしておいてください（笑）。まだ始めて日も浅いですし、これから確立していきたいですね。
-- 後継者や次世代へのメッセージをお願いします。
坂）製造業で、更に現場での仕事というと地味に感じると思うんですね。若い人にはなかなか受け入れられない。だけど、その中でも喜びはあります。それをいち早く見つける事が自分の成長にも繋がると思います。一つの事に打ち込んで一生懸命やれば、絶対に何かのステップになるはずです。
-- 今後、坂下さんがやりたい事はありますか？
坂）眼鏡以外の業界も見るようにして、他業界の新しい発見を眼鏡に応用したりしたいです。熟練の職人さん達に比べて、まだまだ若造ですし、熟練の職人さん達のようになろうと努力しても、今すぐになれるものでもないので、柔軟性をもって、新しい技術や機械を使いながらそういった職人さん達と肩を並べれるようになりたいと思ってます。
-- あなたにとってめがねとは？？
坂）「レンズ加工とは」に変えてもらってもいいですか（笑）。
-- いいですよ（笑）。では、あなたにとってレンズ加工とは？
坂）レンズとフレームのかけ橋ですね。（レンズもフレームも）どちらも独立しては存在しえない物なんですよ。
