鯖江メガネファクトリー

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HOME > ゲンバシュギ > 047 藤田睦1/2(芯張職人)

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時代の変化に伴って、「芯張(しんばり)」という技術が鯖江から消えつつあります。藤田芯張工業所の藤田睦氏は、鯖江で唯一と言っても過言ではない芯張職人です。その技術は長年の経験と感覚に頼るしかない、とても繊細な世界。芯張の技術によって、テンプルの強度だけでなく、メガネのデザインの可能性も格段に広がる、無くてはならない技術です。

「芯張」って、何?

img10.jpg芯張がされた商品。削り、磨きを経て、メガネのテンプル部分になります。-- 藤田さんがなさっている「芯張」とはどういう工程なのでしょうか?
芯張については、何か予備知識はある?

-- 実はほとんど無いのですが…以前セルフレームメガネのテンプル部分に、針金を温めて挿し込んでいる作業を見せて頂いたことがあります!あれが芯張ですか?
あれは芯張に近いけど、「シューティング」という技術で正確には芯張とは少し違うね。シューティングは、テンプル用に細長くしたプラスチックに細い金属の芯を串刺しにする方法なんだけど、例えば、この金属の芯に装飾やデザインが施されているとうまく刺し込めないでしょ?

-- そうですね。引っかかって刺せないと思います。
そこで、生地の状態(板状)のプラスチックを2枚に剥いで、その間に芯を張り合わせることで芯をテンプルの中に入れることが出来る。これが芯張です。

-- シューティングと芯張は同じものだと思っていましたが、違う技術なんですね!
もともとメガネにセルロイドという樹脂を使っていた頃は、テンプルはすべて芯張で加工されていたんだけど、20年くらい前からセルロイドに代わってアセテートという樹脂を使うようになってから、芯張の加工がし辛くなってしまったんです。そこで、どのメーカーも、シューティングという技術にやり方を変えて、今や芯張は珍しい技術になってしまいました。

-- だから、芯張が出来る職人さんがもうほとんどいらっしゃらないんですね。芯張はどういうところが難しいんでしょうか?
まず工程が多いことですね。


all.jpg「本当に芯張?」と目を疑うような、龍のデザインがされた芯を張込んだメガネ。

-- 是非その工程を見せて頂けませんか?
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最初に、メガネの元になるアセテート樹脂の板を短冊状に切ります。これを機械で削って厚みを均一にしてから、半分に割るんです。



-- 既に5mmほどの厚みしか無いのにさらに半分にするんですか。難しそう…
img5.jpgセル板を半分に割る機械(上)と、半分に割られたセル板。この間に金属の芯を挟み、密着させます。 きれいに真ん中で半分にしなくてはいけないんだけど、板自体が何枚かの薄い板を張り合わせて出来ているから、その合わせ面で割れちゃうこともあるね。キレイに割るために、まずヒーターで温めて素材を柔らかくします。うちはこのニクロム線のヒーターを使っています。もう何十年も前の年代物ですね。今ではもう売ってないです。

-- こんな薄い板を半分に割る機械もあるんですね。
40年くらい前の機械ですよ。これも今はもう作られていないかもしれないね。芯張をする会社が少なくなってきているから、こういう機械を作るところも少なくなっているんだよ。売れないからね。だから、機械の修理も自分でするし、刃も自分で使いやすいように作るよ。

-- 刃を作るんですか!?
材料を知らない人が作った刃は、すぐに刃こぼれしてしまうからね。鉄工所に行って鋼を切ってもらって自分で削って焼き入れをしたものを使っています。

img2.jpg出来立ての芯張テンプル。使用する樹脂も、一つ一つ混ざっているものの比率が違うため、密着させる際に影響が出てくるのだそう。溶剤・温度・圧力の絶妙なバランスは職人の感覚でしか分かりません!-- 芯張職人はなんでも出来ないといけないんですね。板を半分に割った次はどんな工程ですか?
この板に丁番を埋め込む穴をあけてから、金属の芯を這わす溝を掘って、芯を入れ、溶剤を塗って張り合わせます。30分~1時間くらいである程度剥がれなくなるから、次に油圧式のヒーターに張り合わせた板を入れて、熱と圧力で密着させます。アセテートは密着させても剥がれやすい素材なんだよ。これが、アセテートの芯張が難しい理由だね。うちでやっている工程はここまでだけど、この後にテンプルの形に削り、磨きを経て完成です。ちなみにこの削りもマニュアルが当てはまらず、感覚が80-90%という非常に繊細な仕事です。僕がうまく芯張をつくらないと後の削りに影響する。うまく作っても削りがダメだと台無しになる。芯張と削りの工程は両方が完璧でないといい商品にならないんです。

-- 芯張というのが、確かにものすごく手間ひまが掛かっているのがわかりました。
芯張で一番難しいのは、密着させる時にきちんと板の真ん中に芯が入るかどうかなんだよ。中の芯のデザインが複雑だと真ん中にいきにくい。圧力をかけているうちに端に寄ってしまうんだよ。それに密着させた中に気泡が入ってもいけない。芯張に装飾があり、厚みが均一でないので、どうしても厚みが薄いところに気泡ができやすい。取り除ける気泡もあるけど、出来ない場合は商品にならないからやり直しだね。

-- 難しそう…。成功する確率って低いんじゃないですか?
芯張を始めた頃は半分が失敗だったね。それが嫌になって周りの会社は芯張を辞めちゃったね。メガネの業界は一つ失敗しただけでも損失が大きいから、仕事は百発百中じゃないと食べていけない。だから、経験を積んで、素材を見極め、かつその日の気温によって溶剤や圧力、温度を微妙に変えて密着させるんだよ。

今日辞めよう、明日辞めよう…でもやっぱり芯張を続けたい。

img8.jpg芯張りを経て仕上がったテンプルは、どれもため息モノの美しさ。このテンプルにフレームが組み合わされると、テンプルの美しさがさり気なく効いた、とても上品な印象のメガネの誕生です。-- 芯張によって出来たテンプルは本当にキレイで、その技術は非常に繊細なものだと思います。藤田さんはずっと芯張一筋でやってこられたんですか?
そうです。高校を卒業してからだから、もう38年くらいになるかな。

-- もともとはお父様がなさっていたんですか?
そうですね、ここは父が46歳の頃に始めた会社で、体を悪くしたので、僕が会社を継ぐことになりました。

--一人前になるにはどのくらいかかりますか?
自分が一人前になったなんて考えたこと無いですね。毎回毎回が違う商品、違う条件だから、失敗もするしね。それに、芯張を始めた頃は今日辞めよう、明日辞めようって考えてたからね。それくらい大変な仕事だよ。素材もどんどん新しくなるから、毎日が試行錯誤の連続。今までの経験を総動員させて何とか解決策を考えながら日々仕事をしています。

img1.jpg藤田 睦 氏--38年間ずっと芯張をやってこられたのは、失敗してもすぐに改善出来る技術と経験があってこそですね。藤田さんご自身は、周りの会社がシューティングに移行する中で、一緒にシューティングに移るお気持ちは無かったんですか?
アセテートに素材が変わり始めた時に、実はシューティングもやったんですよ。でも芯張とシューティングを両立するにはやっぱり無理がありましたね。それでどちらかを取るなら…って考えた時に、やっぱり芯張を続けようと思ったんですよ。

--今や、鯖江で芯張が出来るのは藤田さんだけと言っても過言ではないのですが、是非この技術を若い世代に引き継いで頂きたいです。
この技術が無くなるのは惜しいけど、教えて出来るものでもないからね。コツコツ長い間やり続けて失敗して分かっていくものだから。それでもやりたいっていうやる気のある人がいれば、引き継いでいって欲しいね。

--本日はありがとうございました!

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藤田 睦 Mutsumi FUJITA
藤田芯張工業所 代表
芯張職人
生年月日:1954年10月4日

社名:藤田芯張工業所
従業員数:3人
福井県鯖江市柳町3-2-26
TEL 0778-52-3452