鯖江メガネファクトリー

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HOME > ゲンバシュギ > 004 高林義広(スウェージング加工職人)

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チタン合金、形状記憶合金などを加工し、「テンプル」や「ブリッジ」の製作を主な業務とする清水工業所。スウェージングという加工技術を用い、部品を製造している。このスウェージング加工を専門とする職人「高林義広」氏(以下 高)の仕事のゲンバに迫り、その熱意や技術の高さを語ってもらった。

これまでの数々の異なるゲンバでの経験が、今に活かされている。

まず、眼鏡業界へ入ったきっかけ、職人という道を選んだ理由を教えてください。

高)私がこの業界に入ったのは、ちょうど30歳の時。それまでは、繊維関係の仕事に就いていました。その会社は染色の会社で、一通りの工程を経験しました。その後、いくつか眼鏡関係の会社に入り、一から覚えていきました。今の仕事(スウェージング)を本格的にやりだしたのは、ちょうど40歳の時かな。それから15年になるね。

-- 色々な仕事をされてきた中で、転機やエピソードはありますか?

高)うーん、前の会社にいた時に中国に工場を出すことになって、北京に指導しに行ったんやの。10ヶ月くらいかな。中国の人は優秀でしたよ。手先が器用でしたし。正確に教えたら、優秀なもんが上がってきてましたね。まあ、その当時から中国人に教えるということ自体には疑問はありましたね。業務だったから、首を捻りながら教えていましたけど。

img01.jpg-- では、仕事の喜びは、どういうときに感じますか?

高)難しい品物を仕上げた時やな。簡単な品物ばっかりじゃないから。「どうしたらいいんやろー」って、本当に悩んで、それが出来た時がやっぱり一番嬉しいね。


-- ぱっとアイデアが思いつくことってあるんですか?

高)基本的には、やっぱり経験というか、一つ一つの積み重ねだけど。ただ、「どうしよう、どうしよう」ってなって、解決策が見つからん時に、寝て、次の日、目が覚めると、ぱっと答えが見つかる時があるね。「あぁそうか」ってなって、その通りにやってみると上手く出来るんやね。寝てる間に頭が考えてくれるんかね(笑)。

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どれだけ金型に負荷を掛けず、効率よく作るか。

高林氏を一番近くで見守り、その技術の高さを一番よく知る清水英夫社長(以下 清)にも、お話を伺った

tool01.jpgテンプルの元の材料-- 清水社長が思う、高林さんの『スゴイ』と思うところはどういうところですか?

清)スウェージングというのは、テンプルなどを加工する際に、丸線状態の材料を切削するんではなくて、叩いて伸ばすことで、太さを変える技術なんやね。金属を鍛えることで、強度を高めたり、柔軟性を出したりすることができるから、柔軟性が掛け心地を左右するメガネにとって、とても重要な工程なんやね。この加工を経た材料を金型でプレスして形作るんやけど、タイヤキと同じで材料が金型の容量より大きいとバリ(余分な部分)が多く出るし、金型に無理がかかるから金型が割れやすくなるんやね。だから、いかに金型の容量や、型に合った材料をスウェージング加工で作れるかがポイントで、その辺は、長年の経験がないと出来ない部分やね。高林さんは、これらのツボを押さえた形状の材料が作れるんやね。

高)昔は、大きい会社にいたから、自分の工程だけを考えていればよい環境だったんやね。各工程間で意思疎通もせずに、各自ばらばらに作業をして、一つのもんを作ってた。それでも製品は作れてたんやね。ただ、金型の容量を無視した材料が回ってきたりするから、金型に掛かる負担が大きくて、大体、大きい会社のプレス金型は800本作ると割れてしまう。
この会社に入ってからは、1から10まで私のやりたいような段取りで出来るから、プレス用の材料の寸法出しをきちっと正確にやるようになった。そうすると、800本をプレスするだけで壊れていた金型が、1万本でも、2万本でも、持つんやね。

清)金型が割れないように、どれだけの効率でやれるかというのが、見ただけで分かるようになるというのが、職人やなあ。

tool02.jpg左より:スウェージング加工後、プレス加工後、バリ除去後 このバリをいかに少なくするかが、職人の腕の見せどころ。スウェージングによる材料の寸法出しでは、100分の1ミリ単位で調整するそうだ。-- ものづくりの際に心掛けていることはありますか?

高)そうやねー。お客さんの要望に応えることは、もちろんやけど。ものづくりには欠かせない機械や金型、材料にも人と同じような「心」があると、私は思うんやね。その心を大切にしたい。人も機械も全てが幸せになるよう心掛けてるよ。

--今までで一番難しかったものってどういうものでしたか?

高)最近やった仕事で難しかったのがあって、通常は1回、2回のプレスで出来るんだけど、それは4回プレスが必要な形状やった。金型が割れるか、割れんか、ぎりぎりのとこでの極限の勝負やったね(笑)。

--社長が、他社からの仕事を受けて高林さんに仕事を渡すんですよね。社長は難しい注文が来ても断らないんですか?

清)断る時もあるよ。だけど、その時は、彼(高林さん)なら出来るかなと思って受けたんやけど。

高)私も、注文が来た時に「出来るんかいな」って、思ったね(笑)。仕事を受ける時に大体は判断できるんやけど、やってみないと分からん部分ってのも多々あるからね。結局、その仕事を受けたんやけど、受けたからには、やり遂げないと。

--次世代に対して思うことはありますか?

清)次世代のことを考えると、これからの日本はどうなっていくのかなーって、私自身不安やね。これから、課題が色々出て来ると思うから、それを一つ一つ解決して、この業界で生き残っていかないと。コンピュータを絡めたものも、高林さんのような手を絡めたものも、やっていかないといけない。そういったことを次世代に繋いでいきたいです。

img03.jpg清水社長(写真右)と次男の貴大さん(写真左)。--社長の息子さん兄弟も、働かれているんですよね。

清)はい。息子らに託したいものはあるね。でも、自分も親父のやっていた後を継いでいるけど、当時と今は、ぜんぜん違うことをやってるし、おそらく息子たちの世代でも、どんどん違ってくるでしょうね。

--最後に、あなたにとってメガネとは?

清)その人を表現する道具。小売屋さんには、多分千枚くらい違う種類のメガネがあると思うんですね。その千本の中から店員さんに薦められて買ったり、自分で選んで買ったり、色々なお客様はいるけど、その選び方も含めて、『その人を表現する道具』だと思うね。

高)私は、メガネは見えれば良い。車は走れば良いと思ってる。しかし、私を育ててくれた周りの環境が良かったので、こういう仕事に就けたってことは、感無量というか、幸せだなっていうのはありますね。私の天職なんだなって。

道具をいかに大切に扱い、できる限りのムダを削り、いかに効率よく美しく作るかということが、このスウェージングの技術を持つ高林氏の腕であるが、この事はモノづくりの基本となるではないか。高林氏は、私たちが普段目にする事の無い「100分の1ミリ単位」の世界から、モノづくりの極意を教えてくれた。<了>

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高林 義広 Yoshihiro Takabayashi
業   種:スウェージング加工職人
生年月日: 1951年 8月 6日
社   名:株式会社 清水工業所
H    P: http://www.smz-ind.com
1972年創業/従業員数22人