有限会社オプトピアは、メガネの腕の部分であるテンプルの加工を行う会社です。社長である大越紀代士さんは、以前ゲンバシュギで取材させて頂いた藤田芯張工業所の藤田睦さんも信頼している、テンプル加工の職人さんです。笑顔がとても素敵な印象の大越さんでしたが、お話を伺ううちに素晴らしい技術とこだわりをお持ちのベテラン職人の顔を垣間見ることが出来ました。(藤田芯張工業所・藤田睦さんのインタビューはこちら)
どんなテンプルでも削れるテンプル加工職人!
--大越さんが普段なさっているお仕事についてお聞かせください。
主な仕事はテンプル加工、削りやね。
--テンプル加工とはどういう工程ですか?
シューティングという工程でテンプルの形に削りだした樹脂板を、熱で温めて柔らかくして、そこに金属の芯棒を差し込むんだよ。これにはもう一つやり方があって、樹脂板に芯棒が差し込める穴をあらかじめ空けておいて、後で芯棒を手差しするっていう方法もあるよ。この方法だと失敗も少なくて複雑な形状の芯棒も入れ易いね。
--ここで気を使うことは?
熱で温めるとき、材料の質によって微妙に温度を変えなきゃいけない。その加減が難しい。そうそう、生地の色によっても温め具合が違ってくるんだよ。
(上)樹脂の中に芯が入っている状態。(下)テンプルに穴をあけて手差しで芯を差し込む方法は、複雑な形状の芯でも入り易くなる。
--なるほど、まさに職人の勘ですね。削りの工程はどういうものですか?
板状の樹脂をテンプルの形にカットして、丸みを出すように削る工程やね。その後ガラ(研磨材)に入れて艶を出すところまでやってるよ。
--以前、ゲンバシュギで芯張職人の藤田さんを取材させて頂いたのですが、芯張された樹脂板をキレイに削りだせるのは大越さんしかいないと仰っていました。芯張りの削りとはどういうところが難しいんでしょうか?
※芯張とは…樹脂板を2枚に剥いで、その間に芯を張り合わせることで差し込めないような複雑な形の芯をテンプルの中に入れることが出来る手法。福井では藤田芯張工業所の藤田さんしか出来ない工程です!
既に芯が入っている樹脂板を削る時に注意するのが、芯が必ず中心を通る仕上がりになるように削らないといけない。だから機械で自動では出来ないね。芯がまっすぐに入っているものばかりだと機械でもできるけど、芯は微妙に中心からズレていたりするから、感覚を頼りに芯がまっすぐにくるように手で削るしかないからね。ここ数年、複雑な形の芯が増えてきて技術的にも難しくなってきてるね。
--確かに芯棒ギリギリのところを削っているテンプルもあって、とても難しそうですよね。
この様な状態で藤田さんから仕事を依頼される。ここから下の写真の状態にまで削るのは至難の業!コンマ3ミリの世界やからね。目が良くなくっちゃできないんだよ。
-- 特に難しかった削りの仕事はありますか?
厚みのあるセル板に芯が曲がりながら入っているデザインのテンプルがあって、これは難しかったね。納得いくものは出来たけど、失敗も多く出ちゃったからもうやりたくないね(笑)。
-- ここだけはどこにも負けない!というポイントを一言お願いします。
やっぱり削りだね。どんな腕(テンプル)でも出来る自信があるよ。
43年のベテラン職人のこだわりとは。
--大越さんはこの道何年になるんですか?
大越紀代士氏
もう43年になるね。ずっとテンプル加工をしてきたよ。初めは削りをしていたけど、それからシューティングもするようになったね。昔は機械もなかったから、ヤスリで1本1本削って形を出していたよ。
-- 一人前になるにはどのくらいかかりますか?
感覚の問題だから、個人差はあるだろうけど…全部任せられるようになるには5年はかかるかな。言われたことが出来るだけじゃなくて、失敗しても対処出来ないと一人前とは言えないからね。
-- お仕事をされるうえでやりがいはどういうところにありますか?
工場にある機械も、大越さんと同じく40年もののベテラン機械です。
思っていたよりも上手くいったときは嬉しいね。それが自信にも繋がるしね。
--お仕事を長くやっていくコツは?
どうしても上手くいかないときは、あまり根を詰めずに一息入れて考えることかな。ずっと考えていてもダメなときはダメだから頭を切り替えることが大事だね。私は今までこの仕事を嫌になったことはないんだよ。
--一度もないんですか?
そう。仕事しているときは集中出来て無心になれるね。天職だと思うよ。今70歳だけど、続けられるだけ続けたいね。生涯現役でいたいね。
--これからメガネ職人をめざす若い世代の皆さんにアドバイスはありますか?
樹脂板の色や、その日の気温によっても樹脂板の柔らかさが変化するそう。その見極めも全て大越さんの感覚勝負です。
今までやってきたことを習得するだけではこれからの時代ダメだと思うよ。それに加えて新しいことをやっていかなくちゃ。そのためには自分なりのこだわりを出せるかどうかだね。
--ずばり、大越さんのこだわりとは?
自分の納得のいく製品を作ることだね。変だなと感じたらそのままにしない。どこに出しても恥ずかしくないものを作ることがこだわりだね。お客さんにも、私のこだわりを提案するときもあるよ。頼まれたことをやるだけでは納得いかないときもあるからね。いくら図面やコンピュータ上で良い形で、数字上問題なくても、その通りにはいかないこともある。最後は人の手で作るものだから、作り手の経験、技術に頼らざるをえない。だから、私の感覚で提案出来る部分はした方が良いと思うね。
--本日はありがとうございました!
大越紀代士 Kiyoshi OGOSHI
有限会社オプトピア大越 社長
テンプル加工職人
生年月日:1940年2月4日
社名:有限会社オプトピア大越
従業員数:3人
福井県鯖江市水落町5-24-2
TEL 0778-51-2509