鯖江メガネファクトリー

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HOME > ゲンバシュギ > 003 佐々木勉(金型仕上げ職人)

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 ㈲山司金型は、「ブリッジ」や「テンプル」等の眼鏡部品を、「プレス加工」により作る際に用いる「プレス用金型」を中心に製造するメーカーだ。プレス加工とは、材料となるチタン合金等の金属を「プレス金型」で2方向から挟むことで、金属材料を切断したり、曲げたりして思い通りの形にかたどる加工法である。
 その山司金型で、金属製造の最終工程である「仕上げ」の職人として日々腕をふるっている佐々木勉氏(以下 佐)に、仕事に対する姿勢や金型の技術について語ってもらった。

今の自分に納得はしない。

まず、メガネ業界に入ったきっかけを教えてください。

佐)私は、これまでずっと金型の仕事をしていたわけではないんですね。以前は、繊維関係の会社で型紙のトレースをしていました。今の会社に入ったのは22年位前です。知人の紹介で入社しました。

-- 「繊維」も「眼鏡」も福井県の代表的な地場産業ですね。入社して22年ということは、金型仕上げ歴も22年ということですか?

佐)いいえ。金型製造には他にも色々な工程があります。入社して10年位は他の工程をやっていました。だから、この仕上げ工程のキャリアは10年位ですね。

tool01.jpgヤスリ:仕上げ面の形状によって何種類も使い分ける。-- 仕上げ工程では、どのような道具を使われるんですか?

佐)仕上げ工程では、前工程で出来た金型を、試作フレーム(注1)の形状に合うように、ヤスリや砥石(といし)を使って磨いていきます。

-- やはり、修業期間はいろいろと苦労されましたか?

佐)そうですね。最初5年位は先輩職人の下で、仕事を教えてもらいました。「仕上げ」という作業は、ヤスリや砥石の力加減がとても重要なんです。力を入れすぎると、そこだけ面が凹んでしまいますからね。この力加減は感覚的なものなので、言葉で教えてもらってもなかなか出来ません。体で覚えるしかないんですよね。

tool02.jpg砥石:目の粗さによって色分けがなされている。-- なるほど。経験が物を言う作業ですね。やはり感覚をつかむには、磨いてナンボって事でしょうか。

佐)そうですね。 それに、テンプルやブリッジなどの眼鏡部品は、左右対称の物が多いんですが、人間がやることですから、どうしても左右で微妙な違いが出てしまうんですね。その違いを極力少なくするために常に努力しています。


img01.jpg細かい作業のため、拡大鏡は欠かせない。根気の要る作業だ。-- そういう意味では一生修業って事でしょうか?

佐)そうです。自分自身もまだまだですね。 やはり自分に限界を作ってしまったら、そこで成長が止まってしまうと思うんです。常に今の自分に納得せず、驕りを持たない。それだけですね。

-- その姿勢が、佐々木さんの仕事に反映されているのですね。

佐)うちは金型メーカーなので、眼鏡の金型であれば、お客さんは眼鏡メーカーです。仕上げた金型は、お客さんに見てもらって、そのお客さんのイメージに合うような金型に仕上がっていないと納品することができません。 じっくり時間をかけて磨きたいというのが本音ですが、納期は限られています。かといって急ぐと、その気持ちが製品に出てしまいます。どうしても仕上げ面が雑になってしまうんですね。 あせらずに、限られた納期までの時間で調整しながら自分のベストを作る。それが、自分の仕事に対する姿勢ですね。

tool04.jpg「テンプル」の金型:眼鏡の金型を作るための材料(写真左)と完成したテンプルの金型(写真右)。 繊細な模様が施された金型の仕上げには、細心の注意が必要だ。
-- 昔と比べて、変わった事はありますか?

佐)やはり昔と比べて機械化が進みましたね。最近は、コンピューターを使って設計されてますから、その設計データをNC(注2)に入力すると、データ通りの金型に機械が削ってくれるんです。

機械は、同じ形状の物を短時間で複数作ることができます。でも、細かい造作や特殊な曲面を持つ金型はもちろんのこと、見た目の柔らかさや繊細なラインは、やっぱり手作業じゃないと出せませんね。 ただ、機械化が進んだ事で、全体的な仕事のスピードは早くなりました。まあ、仕上げは手磨きだから、仕上げ待ちの品が次々と上がってくるようになりましたけどね(笑)。

-- では、昔と比べてメガネのデザインは変わってきていますか?

佐)以前のメガネは、割とシンプルなデザインが多かったですけど、最近のメガネは、デザインもかなり複雑になってきていますね。 昔はやはり「手作り」っていう感じが強かったですね。だから今は、作り方自体かなり変わりました。

-- なるほど、腕の見せ所というわけですね。
ところで、現在鯖江の眼鏡製造業界も後継者不足と言われていますが、今の若者たちに何か伝えたい事はありますか?

佐)そうですねー。やはり、何をやるにしても好きでやって欲しいです。 そして、自分に限界を作らずどんどん挑戦していって欲しい。 私の仕事でいうと、やっぱりこの仕事が好きじゃないとできないと思います。一日中、座って拡大鏡を覗きながら手を動かし続けているわけですからね。

-- たしかにそうかもしれませんね。一日中座っていてストレス溜まりませんか?

佐)今でも仕事終わりや休日にソフトボールをして、なるべく体を動かすようにしてますよ。気分転換することは大事ですね。

-- 最後に、あなたにとってメガネとは?

佐)うーん。メガネとは・・・。人生の勉強ですね。 壁にぶち当たった時や悩んだ時の試行錯誤。そしてその結果、上手くいったときの喜びを通して人生を勉強してきたと思います。
色々苦労もありますが、自分が携わったメガネが店頭に並んでいるのを見ると、とても嬉しいですね。どんな人が使ってくれるのかなーってね(笑)。
私は、一生職人でいられたら幸せですね。

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納期対応を付加価値に

今回、取材を行った㈲山司金型は、納期対応で定評のある金型メーカーだという。専務取締役の山本忠寛氏(以下 山)は、職人佐々木氏についてこう語る。

山)佐々木さんは、お客さん(眼鏡メーカー)それぞれの趣向を熟知しています。 仮に、複数のお客さんから、全く同じ形の部品の注文が来たとすると、佐々木さんは、そのメーカーの趣向に合った仕上げ面になるよう、微妙に調整するんやね。
そのお客さんが求める雰囲気が分かっている分、確認も早く通りやすい。 そこが佐々木さんの凄い所なんです。


-- メガネは製品自体は小さいが、面の微妙なラインの違いで、その表情や印象が一変してしまう。それ故に、デザインイメージを左右する細かな曲面の修正は非常に重要であり、この微妙なタッチがまだまだ機械では出せないようだ。やはり職人の手仕事は、眼鏡業界にとっても無くてはならない財産であることは間違いない。ゲンバシュギ#001の増永氏のコメントからも共通の認識が伺える。

-- あくまでも謙虚。口数は決して多くはない佐々木氏。
しかし、仕事に対する姿勢や、職人としての誇りは、彼の言動はもちろん、彼が作ったモノが雄弁に語っているように感じた。
まさに「モノが語る」、職人の「物語」に触れる事ができた一日だった。<了>

(注1):眼鏡フレームは、開発段階で試作品(試作フレーム)が作られ、それを元に量産が検討される。
(注2):NCとは、Numerical Control machiningの略。ドリル等の切削工具をサーボモーター等により三次元の座標値で制御することで、立体的に切削加工できる機械。

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佐々木 勉 Tsutomu Sasaki
業   種:金型仕上げ職人
生年月日: 1960年 9月18日
社   名:有限会社 山司金型
1987年創業/従業員数 8人