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絵本「近松ものがたり」

ページ番号:547-078-325

最終更新日:2023年6月26日

近松ものがたり。
近松ものがたり

時は四代将軍徳川家綱の時代です。
江戸幕府の仕組みもととのい、世は武家中心の社会でした。
その一方、町人たちも経済力を身につけ、江戸や上方では、人形浄瑠璃や歌舞伎などの町人文化が花開こうとしていました。

武家の中にも武術より、文化的な面にすぐれた者たちがおりました。
ここ、吉江の里にもひとり、時代の行く末を見つめる多感な少年がおりました。
治郎吉こと、後の近松門左衛門その人です。

その日、いつものように学問所を出ると、治郎吉は日野川にやってきました。
川には船が行きかい、土手の桜がこぼれそうなほどに咲き乱れていました。
ときおり、いたずらな風に散った花びらが、ゆっくり川を流れていきます。
 治郎吉は日野川が大好きでした。悩み事や考え事があるといつもここにやってきます。
美しい流れをみているだけで心がやすまるのです。

でも、きょうの治郎吉はいつもと少しちがっていました。学問所で先生の言った言葉が耳に残っているのです。
「世の中はいま少しずつ変わろうとしている。いずれ君たちも世の中に出る。そのとき世の中を変えるには剣術や学問だけでなく、人の心を動かす何かもっと別なものが必要になってくる。それがなんなのかよく考えてほしい。」

治郎吉は、先生の言葉をなんどもなんども頭の中でくりかえしました。
でも、いくら考えても、答えがみつからないのです。

気がつくと、夕陽が経ヶ嶽を赤く染めはじめていました。
 治郎吉は七曲りを歩いています。
角を曲がったところに、古いがきれいに手入れされた家がありました。
治郎吉と大の親友、直丸の家です。
「西塔の武蔵、たんだ(ひと)すじに思い切り…」

家の中から、ろうろうとした声がきこえてきます。
直丸のおじいさん、永井小六の声のようでした。
その声がひかれるように近づくと、中から直丸が出てきました。

「治郎吉、じいさまの声に誘われて舞をみにきたのか。」
「ああ、それにしても見事な舞だなぁ。何ていう舞だろう。」
「幸若舞だよ。」
「これが、幸若舞かぁ。」
両手を張り、袖口を祈って前方を鋭く見すえる小六の姿に、治郎吉はじっと見いってました。隠居の身とはいえ、小六の舞には都市を感じさせない、りんとした気迫がただよっていました。

「人の心を動かす何か、か。」
治郎吉はぽつんとつぶやきました。

夏がやってきました。
大谷の池周辺のこんもりとした木々では、せみがうるさいほど鳴いています。
治郎吉と直丸は釣り糸をたれていました。
「なかなか釣れないなぁ。」
「うん、釣れないなぁ。」
「手ぶらで帰るとじいさまに笑われるよ。また、大物をのがしたみたいじゃなって。」
「なあに、そうなげくこともないよ。きょうも一日、殺生せずにすんだんだから。」
 治郎吉は魚の釣れないことなど少しも気にしていないようでした。
空には大きな入道雲が出ています。

「おれもあんな大きな雲になりたいなぁ。」
治郎吉がそう言うと、直丸も空を見上げて小さくうなずきました。

楓が真っ赤に色づく頃になりました。
春慶寺の境内で芝居が行われました。
それは初めてみるあやつり人形でした。丸太を組んで幕をはっただけの粗末な小屋掛芝居でしたが、芝居が始まる前から治郎吉は胸がどきどきしていました。
語りが始まると、つかい手が人形を動かします。
生きているかのように動き出した人形にはあやしいばかりの美しさがあり、治郎吉はすっかりとりこになってしまいました。
終わって誰もいなくなっても、治郎吉は帰ろうとはしませんでした。

いまみた芝居が、夢の世界のように頭の中でなんどもなんどもくりかえされるのです。

朝からしんしんと雪が降りつづいています。
父は子どもたちを屋敷の離れによびました。
これから杉森家恒例の句会がはじまるのです。
母が障子を開けると、一面真っ白な庭が広がりました。
「では、はじめるぞ。」
父が腕を組んで白い短冊をじっとにらみました。
母はもう静かに筆を走らせています。
治郎吉は、雪の中に顔をのぞかせている。
赤い一輪の椿を一心に見つめていました。

この小さな花にも人の心を動かす何かがあるみたいだ…。
治郎吉の手が自然に動きはじめました。

「うむ、いい句いだ。」
父は、治郎吉の短冊を手にすると頬をゆるめました。
いつも厳しい父がほめてくれたのです。

治郎吉は先生の言葉を思い出していました。
答えは見つからないけれど、あの時先生が何を言おうとしていたのか、少しだけわかりそうな気がしていたのです。

その日、杉森家の句会は、なごやかな笑い声とともに暗くなるまで続きました。
雪は、夜になってますますひどくなり、吉江の里はすっぽり雪につつまれていきました。

それから数年後、のどかで平和な杉森家に突然大きな変化が訪れました。
父、杉森信義が吉江藩をやめることになったのです。
長男、市三郎は織田長頼に仕え、三男、金三郎は織田長頼の主治医、平井自安の養子となりました。
そして治郎吉は父、信義らとともに京に上ることになったのです。

 次郎吉は、日野川の土手に座りこんでいました。
兄弟たちと離ればなれになって京で暮らす不安が日ごとにつのりました。
それに、大事な友達や大好きな吉江の自然に別れを告げるのが
とてもつらく思えたのです。
でも、治郎吉は「さようなら」の言葉を胸にしまいこみました。
たとえここを離れても、これからもずっとずっと心の中で一緒にいられるような気がしていたのです。

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