鯖江メガネファクトリー

ゲンバシュギ

 
 

メガネのプラスチック枠を、一つ一つ手づくりで製造している(有)谷口眼鏡。メガネのフロントとテンプルをつなぐ蝶番を埋め込む工程は掛け心地、見た目の美しさ、ともに関連してくる要の部分だ。眼鏡枠製造メーカー、(有)谷口眼鏡の道屋建二氏(以下 道)に、お話を伺った。


メガネづくりのDNA

道屋建二氏

--御社でされているお仕事について、教えてください。

道)当社はプラ枠を作っていて、私は蝶番をフロントに埋め込む作業を担当しています。埋め込んだ後、テンプルをつけて、合口をカットして、メガネのかたちになるようにする準備もしています。この工程は、メタル枠でいうとロウ付けのところになりますね。メガネによっては、蝶番のかたちによってセッティングが大きく変わります。0.1mm、0.2mmという1mm以下のところを狙っていくので、結構シビアですね。

--御社に入られてからは、ずっとそのお仕事を?

道)最初は他の人と一緒で、「ヤスリがけ」、「バフ磨き」という一連の作業をやってたんですけど、世代交代なんかもあって、今の部署には2年前から入っていますね。

--メガネ業界に入ったきっかけを教えてください。

道)私は鯖江生まれの鯖江育ちで、親父もおふくろも兄貴もみんなメガネの仕事をしています。小さい時から自分はメガネ関係に就職するんやろうなと思っていましたね。で、卒業してそのままメガネ会社に就職しました。何の抵抗もなくて、もうDNAがそうなってるんでしょうかね(笑)。
そうやってメタル枠の会社で十数年勤めてたんですけど、家を引越しすることになり転職しました。その際、近所で募集していた、このプラ枠メーカーに入社しました。


谷口眼鏡オリジナルブランド「TURNING」

--メタルとプラスチックでは、工程は全然違うんですか?

道)全然違うと思いますね。私はここに入社して、有機素材と無機素材の違いをビックリするほど感じましたね。メタル枠はメッキで色をつけてコーティングしていくんですね。逆にプラ枠は生地に色がついてるので、磨いてツヤを出していく。そこも全然違いますよね。プラ枠っていうのは熱やら、寒さ、乾燥、湿気なんかにもすごい敏感に反応しますからね。そういう素材と戦ってるんで(笑)。
プラの素材は時間が立つと「枯れる」って言いますからね。可塑剤がとんでしまって生地が枯れる。それ聞いた時には、「あーこりゃ生きてるな」って思いましたね(笑)。メタルだったら1年たって同じ形のレンズを入れたら入りますけど、プラ枠はもう入りませんからね。縮んじゃって。

--お仕事を変わられたこともあるということですが、苦労されたことは?

道)苦労は毎日ですね(笑)。
全てがそうなんですけど、数値的な0.1mm0.2mmの違いを攻めていったり、フロントとテンプルを思ったような傾斜をつけてつないだり、また、たたみかげんなんかも、全部この蝶番の付け方一つで左右されるので難しい仕事だと思いますね。

--メガネ業界の中でも、職人という「ものづくり」の仕事を選んだ理由というと?

道)私の中で職人というと、「全部自分でやってる人」っていうイメージがあるんですよね。ノウハウを全部身に付けて独立して、自分の工場をつくって自分のやったものが全部お金になるっていうようなね。だから、自分としては職人て気はさらさらなくて、そう呼ばれることにあまりしっくりこないんですよね。
ただ、いろんな小売店様なんかがウチに見学しにいらっしゃるんですけど、中には目を輝かせて、「これが職人さんの仕事かー」っていうかたちで工場を見て歩いていると、ああ、これって職人仕事なのかなと。。

 

自分を信じるしかない

--このお仕事をされるうえで、こだわりはありますか?

道)単純な話なんですけどね。蝶番にはふたつ、下駄っていう部分があって、これを生地にくい込ませて動かせないようにするんですけど、蝶番を埋め込んでそれを正面から見た時に、きれいに見えるってことですね。特に透明な生地なんかは、その部分が丸見えなんでね。なおかつ穴を開けた時に白っぽい気泡みたいなのができることがあるんですけど、それを極力できないようにきれいに埋める。多分この部分の善し悪しは素人さんが見ても目に入ると思うんですよね。どの方向から見てもまわりに白っぽい気泡が見えないように、きれいに埋めるように気を付けています。

--確かにこれは、あとから蝶番を埋め込んでいると思うとすごいですね。生地を流し込んで固めたようにみえます。すきまがないですね。

道)この仕事を始めた時から言われてるんですよ。ここはきれいにせなあかんよ、って。ここを見てるお客様もいるんでね。

透明な生地の中に埋め込まれている蝶番。

道)自分のこの仕事だけに限っていえば、自分を信じるしかないっていうか。これでいいっていう確認をその都度してはいても、やっぱり途中で不安になってくる。そこを自分を信じるしかないですよね。失敗しててもうまくいってても。自分を信じていると、逆に機械が変な動きをすると、おかしいなって思って改善できますね。
今この蝶番を埋め込むという仕事に携わって2年程経つんですけど、その仕事を始める時が、前任者があと2か月くらいで会社を辞めるって時だったんですよ。2か月なんてあっという間ですよね。はっきり言って。そして、自分が1人で作業をするようになって、少しずつ自信がついてきました。あとは自分の経験で消化して、それで失敗しても、それはまた自分の経験になりますよね。

--これだけは負けないというものは?

道)今の仕事に自信を持ってやってるって訳でもないですが、でもやっぱり、うちの会社では私しかやってない仕事なんで…

--道屋さんしかできないんですか?

道)そうですね。機械も2台しかないですし、この仕事は覚えるとなると、それに集中しないと覚えられないんですよね。ヘルプとかはできますけど、機械のセッティングとかなると難しいことになってくるんで。

--自分でできるようになったなと実感するまでに、どのくらいかかりましたか?

道)1年くらいですかね。半年程で、一応できてたんですけど、でも不安な要素もいっぱいありましたし。今でもはっきりいって、満足にやれてはないんですけど。
プラ枠って難しいところがあって、穴を空けてから蝶番を埋め込むんですよね。これは穴を空けるのを失敗してしまったら、その枠はおじゃんなんです。また、正面から見て穴の部分が白っぽくなってしまっても、不良品になります。メタル枠だったら、蝶番を外して磨き直して、またつけ直すことができるんですけど。

--難しい部分というと?

道)穴を開ける機械のセッティングがやっぱり難しいです。2年くらい経ってますけど、今でもずっと。一種類のメガネのセッティングをするのに、必ず1枚は失敗を出してます。もし会社から、「一枚も失敗出したらいかんぞ」って言われてたら、そりゃあもうできない仕事だと思いますね。

--ものづくりの喜びって、何でしょう?

道)最初は、この仕事をやってて自分の思った通りのメガネのバランスができてたら、あー間違ってなかったなって思えるということが一つあったんですけど。今は、小売店様やお客様が喜んでくれたら、良い仕事したんかなっていうのはありますね。
第一は、自分のした埋め込みの作業の後、ずっと工程を経て出来上がってきたものを見て、ああ自分は間違ってなかったなと思える時ですね。

--若い人達へのメッセージをお願いします。

道)自分を信じて仕事をするようにってことですね。下の者は上の人の言うことは聞かないといけないんですけど、自分の意見とか意志とか、自分をしっかり持って、仕事をしないとだめですよね。まじめにちゃんと信念持ってやってれば、人は認めてくれるんじゃないかと思います。今の人って、私が見てるとこう、うわべだけかっこ良くやってるように見えたりする時もあるんですよね。
なかなかメガネの世界も厳しいですからね。

--最後に、あなたにとってメガネとは?

道)生きてく上でなくてはならないものですね。自分は目が悪いんでメガネを掛けてますし、仕事としてやっているということもありますし。切っても切れないものです。どんな情報を得る時でも”メガネ”ってあったら「ビビビ」っとアンテナが向きますね。何においても重要なポイントになるものです。

 
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  • 道屋 建二 Kenji MICHIYA
  • 業   種:蝶番込み職人
  • 生年月日:  1969年5月10日
  • 社   名: 株式会社 谷口眼鏡
  •        1957年創業/従業員数15人
  • ホームページ:http://www.turning-opt.com/

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