posted:2013.12.27
エッジの効いたフォルムと抜群の掛けやすさで数々の賞を受賞しているメガネブランド「杉本圭」。その独創性が評価され、アイウェアオブザイヤーのグランプリ受賞をはじめ、2013年にはメガネのアカデミー賞と呼ばれるシルモドールにノミネートされました。国内だけではなく海外からも注目を集める同ブランドでは、メガネとしての機能、見え方のバランスをデザインし、熟練のメガネ職人の高い技術力で独自の世界感を放っています。
今回のメガネザンマイでは「杉本圭」のデザイナーである杉本圭彦氏にお話を伺いました。
デザイナー / 杉本圭彦氏--メガネ業界に入ったきっかけを教えてください。
メガネ業界に入ったのは45年くらい前ですね。それまでは体育の教師をしていました。
--先生だったんですね。それは驚きです。
中学の頃から器械体操をしてまして、学生時代は国体に出場しました。大学ではオリンピックで団体金メダルを獲った笠松茂と同期でしたね。大学を卒業してから数年間、体育教師として高校で働いていました。高校の教師は自分に合っていたので、満足していたのですが、26歳のときに学生時代からお世話になっていた先輩からメガネ業界にヘッドハンティングされました。
--教師からメガネ業界へ。周囲から反対はなかったのですか?
周りには猛反対されましたが、誘ってくれた先輩にはずっとお世話になっていたので、結局メガネ業界に転身しました。先輩の会社に入社してからは、営業や製造など一通りの工程を経験させていただきました。その頃の経験が今も非常に役立っています。
--いつごろ独立されたのですか?
先のメガネ会社に数年勤めたあと独立し、CR-39のレンズ会社を設立しました。そして試行錯誤の末、CR-39を用い注入方式で偏光レンズを作る方法を開発しました。
※CR-39はアメリカのコロンビアレジンが‘39番目’に開発した光学プラスチックの原料名のこと。
--え?そうなんですか?
趣味が釣りなので、ギラつきを抑えるレンズを作りたいと思ったのがきっかけでした。なので私のメガネづくりの原点はレンズが始まりです。
--すごいですね。どうやって知識や経験を得られたのですか?
独学ですね。大変ですが一生懸命やってるとなんとかなるもんです。追求すればするほど新しい発見があります。産みの苦しみはありますが、できたときの喜びはそれ以上ですからね。
厚さ8mmの生地はエッジを引き立たせ、立体的に彫り上げたフレーム。--杉本圭ブランドはいつ立ち上げられたのですか?
6年ほど前です。ずっとレンズの仕事をしていたのですが、15年ほど前からFrom-i(フロムアイ)というブランドを始めました。その後フロムアイで培ったノウハウを活かし、他がやらないようなメガネを作りたいという思いで立ち上げたのが「杉本圭」です。ネーミングについてはお付き合いをしていた小売店の助言もあり、自分の名前を冠しましたが、はじめは恥ずかしかったですね。(笑)
--ブランドコンセプトを教えていただきますか?
他と同じことはしないことはもちろん大事なことですが、職人の持っている技術力を活かした眼鏡を創りあげていくこと。それが「杉本圭」の役目だと思っています。「お客様のご要望、職人の技術力、杉本圭のデザイン力」、これらが「三位一体」になって生まれるメガネを世界へ送り出していきたいと常に考えていますね。「何も語らずともフレーム自体が語ってくれる」ようなメガネづくりを目指しています。
--メガネづくりで大切にされていることはなんですか?
メガネは目を守ることが大前提です。デザイン性を重視しても掛け心地がよくなければ意味がありません。レンズ加工のことも考えないといけないですし、このあたりは40年間フレームとレンズについて蓄積してきた経験が非常に役に立っていますね。もう一つは素材の使い方です。素材の特性を把握した上でそれらを活かしたものづくりをしていかないと良いメガネはできないので素材は慎重に選びますね。
できるだけ詳細に図面を描くことで作り手に伝えることを心がけている。--「杉本圭」はカラーバリエーションも含めて相当な商品数だと思うのですが、どなたがデザインをしているのですか?
すべて自分がデザインします。小売店の求めるメガネと職人の技術をつなげることが自分の役割なので図面はもちろん、場合によっては仕様書を作ることもありますね。
--「杉本圭」のメガネは鋭いエッジが立っていたりと、技術的に製造が難しいのではないですか?
実際難しいですね。通常はガラ入れといって、機械でメガネを磨いて仕上げるのですが、ガラ入れではどうしても角が丸くなってしまいます。だからこの工程はすべて手作業で行います。キレイなエッジを出すためには職人さんの熟練の技術が欠かせません。ただ相当手間がかかるのではじめは嫌がられましたね。(笑)
杉本圭の真骨頂であるエッジの効いたメガネは職人の高い技術が支えている。--どうやって職人さんとの信頼関係を築いたのですか?
コミュニケーションですね。完成する形のイメージを現場と共有できないといいものは作れませんから、こちらも誠心誠意をもって伝えることで、職人さんもいいものを作ろうと頑張ってくれます。それが実際に販売につながることで実績になり、信頼関係も築くことになります。今では本当にいいパートナーとしてお仕事させてもらっていますね。
--営業も杉本さんがご自身でされているのですか?
そうですね。自分で営業に行きますし梱包・発送も一人でやっています。営業については季節によりますが、1ヶ月のうち1週間は県外にいることが多いですね。自ら販売店に赴くことでユーザーの声を聞くことができるので発想の源もなりますし、いい販売店に恵まれてよかったと思っています。
【Silmo d'Or 2013】メガネフレーム部門ノミネートモデル KS-52 color.4 ネイビー/ハバナ--ブランディングについてはどう取り組まれていますか?
特になにかをしているというわけではないですね。ただ、もっともっといいメガネができるんじゃないかという気持ちだけでこれまでやってきました。こだわればこだわるほどメガネは奥が深いなと感じますし、最近では生地自体を別注して作ったりと、まだまだやれることはたくさんあると思っています。
--国内はもとより海外でも人気が出た理由を教えてください。
今年初めてフランスのシルモ展(※)に出展して感じたのですが、MADE IN JAPANのメガネというだけで、評価が高いんだなと思いました。ヨーロッパでもアジアでもそうでしたが、日本製なら間違いないという空気がバイヤー、ユーザーの中にあるのではないでしょうか。
※毎年フランス・パリで行われる世界最大級のメガネ展示会
--お一人でデザインから営業までされるのは大変だと思うのですが、そのバイタリティーはどこから生まれるのですか?
自分で「ここまで」という限界を作らないことです。一人なので、このぐらいしかできないと思い込まずに何にでも挑戦しています。
--杉本さんの成功の秘訣は?
途中であきらめるから失敗というカタチになるので、成功するまで続ければいいんです。いつか成功する可能性があるわけですから。挑戦し続ければ、必ず成功が見えてきます。人は夢を食べて大きく成長します。だから夢を持ち続けることが大事なんだと思います。
--最後に今後の夢を教えてください。
最近は海外の展示会にブースを出すことが増えてきたので、その国の言葉を話せるようになりたいですね。この前もアメリカの方が事務所まで来てくれたのですが、わざわざ来ていただいたのに言葉が全然話せないばかりに申し訳ない気持ちになりました。最低でも片言ぐらいは喋れるようになりたいですね。
杉本圭株式会社
〒918-8206 福井県福井市北四ツ居町30-138
TEL. 0776-54-9575
FAX. 0776-54-9585
Web:http://www.sugimoto-kei.jp/