posted:2012.08.31
今回のメガネザンマイでは日本を代表するグラフィックデザイナーの佐藤卓氏と、福井県のデザイン界をリードする酒井一氏に、お二人のブランド「BE ALL EYES」について、また、デザインをしていく上で心掛けていることなどについて伺いました。
出会いから始まった新しいメガネづくり
--お二人は、「BE ALL EYES 」というブランドのメガネをデザインされていますが、どのようなきっかけで、メガネのデザインをすることになったんですか?
佐藤卓氏佐藤卓氏-以下「佐藤」)酒井さんとは、デザイナーが集まる会合でお会いしたのがきっかけです。たまたま隣に酒井さんが座られ、僕がメガネを掛けていることもあり、メガネ話で盛り上がったんですよ。酒井さんは様々なデザインの仕事をされながらメガネのデザインもされていることもあり「佐藤さん、もしメガネのラフスケッチを送ってくれれば、サンプルを作ってもらいますよ」と誘っていただきました。僕は驚いて、「そんなに簡単にメガネが作れるんですか」と聞くと、「鯖江には技術を持っている人がたくさんいるので、ある程度のスケッチがあれば試しに作れますよ」と。自分はプロダクトデザインも好きですし、デッサンを始めた高校3年生ぐらいからずっとメガネを掛けているので、これは面白いと思って「是非やらせてください」と、即答でしたね。その後、酒井さんに鯖江のメガネづくりの現場に連れて行ってもらいました。酒井さん、そのときのことを覚えておられますか?
酒井一氏酒井一氏-以下「酒井」)もちろん覚えてますよ。何社かそれぞれ個性の違う会社を廻りました。そして最終的にオリエント眼鏡さんに協力してもらえることになってスタートしたんですよね。それが今から10年ほど前かな・・・
--2002年に発売となっていますね。
佐藤)2002年ということは、2000年ぐらいには企画がスタートしていたということですね。そういえば形になるまでものすごく時間がかかったなぁ。急いでやらなかったので、僕もゆっくり仕事の合間にスケッチ描いて準備していました。
--どういうメガネをつくろうと考えられたのですか?
佐藤)基本的にはすごく明快で、自分が掛けてみたいメガネをデザインすることが目的でした。普段は100万個以上作るような大量生産品のデザインをする機会が多いので、不特定多数のあらゆる価値観の人に届けるようなデザインをしていますが、このメガネの場合は、そもそも大量生産する予定はなく、少量生産を前提にしていたので、普段出来ないことをここでやってみたいと考えました。つまり、普遍的なものではなく、個人的にこういうのを掛けてみたいというのを基準にデザインしました。それから酒井さんと話し合って、きちんとブランド名をつけようとことになり「一心に見る、目を皿のようにする」という意味の「BE ALL EYES」としてスタートしました。
「できる」、「できない」の境目を探ることは、デザインの大事な作業
--少量生産だからこそデザインの幅も広がるわけですね。
佐藤)そうですね。ちなみにスタート時点では、メガネの技術については全く知らないド素人の状態でした。でもね、僕はド素人でいいと思っているんです。なぜならあまり深く知ってしまうと、これは「できる」、これは「できない」ということが分かってしまうから。どうしてもこじんまりとしたものになってしまう可能性があるんです。だから敢えて詳しくならないようにと常に心掛けていて、すべてのデザインにおいて僕は専門家ではないという立場を守っているんです。だから私が提案するアイデアは企業から次々に「できない、これ難しい」という話になる。(笑)でも、ここからがすごく面白くて、こちらのアイデアを具現化するために、企業も一生懸命考えてくれます。「このままでは無理だけど、これをもう少しこうすればできるかも」というキャッチボールが生まれるわけです。僕は、そのキャッチボールの中で、これは「できる」、これは「できない」の境目を探らせていただくわけです。オリエント眼鏡さんとの打ち合わせでも、こちらがラフスケッチを見せると「これはちょっと難しいな~、この奥行き出すためには、こうやって作って、こうすれば出来るかも、うーん」みたいな感じで、前向きに考えてくれました。そういったやり取りの中でヒントを見つけ、今までとは違うメガネができるかもしれないなと考えるわけです。逆に酒井さんはメガネに造詣が深いので、知識を活かしたデザインがきちんとできる。「BE ALL EYES」は、僕たち二人がデザイナーとして参加してますが、違う目線で考えられるのは面白いなと思っています。酒井さんはどう思われていますか?
酒井)私は、普段から売れるものをデザインするというミッションが多いこともあり、今回みたいな仕事は、なかなかないので面白いですね。
--では、実際にデザインされたメガネについて説明していただけますか?
佐藤)普段使いができて、ちょっと個性が立ったようなメガネをデザインしました。あまりやり過ぎると、普段掛けられなくなるので。そのあたりのバランスは大事にしましたね。そうそう、これなんかすごいですよ。このヒンジは9枚蝶番で、わざわざオリジナルで作っていただいたんですよ。ちょっとハードな感じで当時、こんな形はなかったんですよね。あ、でもその後、そっくりなのが出てきました。すぐに真似をされる業界なんだと思いましたね。(笑)これも結構前に作ったメガネなんですけど未だに気に入ってます。この方向が面白いでしょ。(メガネを掛け替える)ここ、ほら水中眼鏡みたいになっているでしょ。掛けると結構面白いんですよ。こんな風になります。
オリジナルで作った9枚蝶番
メガネは身体と一番近い存在。だからメガネは深い。
--自分が欲しいと思えるメガネが出来上がったときは、どんなお気持ちでしたか?
佐藤)それは嬉しかったですよ。形になってピカピカなメガネが初めて届いた時は、もうなんとも言えず嬉しかったです。なにしろ僕が朝起きて最初にする行為はメガネを掛けることから始まり、寝るまでメガネと付き合っているので。考えてみると僕にとってメガネほど自分の身体化しているものって、他にないわけですよ。温泉に入ってもメガネがないとなにも見えないですしね。(笑) だから自分にとってメガネは特別なものなので、思い入れが他のプロダクトとはちょっと違いましたね。
--確かにメガネは身体に近いですよね。少し重さが違うだけで掛け心地が変わってきますから。
BE ALL EYES 09101 col.1佐藤)そうですね。僕がデザインしたメガネもまさにそうで、身体に近いからこそ、掛けていると色々な問題に気付くわけですよ。もちろんオリエント眼鏡さんが、プロの視点で最低限のところはフォローしていただいてますが、それでも自分の理解が至らないがために、気になる部分が次々と分かってきました。初めてのメガネのデザインが終わったあと、このままでは終えられないと思っていたところ、また次やりませんかとお話をいただき、気になったところをブラッシュアップしてトライしました。でも次は次で、デザインが少し過剰だったかなとか、課題が見えてくるんです。それでメガネは奥が深いなと。僕自身が毎日掛けていたいなと思えるメガネが出来上がったのは3回目でしたね。家も3回建てないと納得したものが建たないと言うじゃないですか。それに近いかなと思っています。住まいは自分の生活、営みと一体のものでしょ。生活と一体のものと、身体と一体のものというのは結構近いんじゃないかなと思ったんです。
--オリエント眼鏡さんとのやり取りはいかがでしたか?
BE ALL EYES 04101 C-2佐藤)いちいち難しいことを言うなぁと思われていたと思います。(笑) 先程も言いましたが、僕はある意味、メガネのことを知らないので。でもね、例えばこのままの形はできないと言われた時に、では、どういう形なら作れるかということを探れるでしょ?探っていくうちに、必ずどこかに接点があるわけです。僕はそれを見つけるのが、すごく意味のある作業だと思うし、まさにそれがデザインだと思っています。例えばこれはね、とんでもないフレームで、なんとアルミなんですよ。実は、メガネにアルミを使ってみたいと思って。ここを見てください。透けてるでしょ?この中のものも全部デザインしたんですよ。ここまでアルミを曲げてますからすごい技術ですよね。
--色を決める際にもこだわりがあったんですか?
佐藤)すべてのデザインがそうですが、色は二次的なものだと考えています。色というのは素材が決まって形が決まりさえすれば、素材ごとに素材の色を選んだり塗装をしたりと、あとで選択できるので。だから、それ以前にきちんと素材や形を整えた上で色を選択するという感じですね。
--世間では「デザイン=色、形のような装飾的なもの」と勘違いされている場合が多いですよね。佐藤さんはそういった方と仕事をされる際、なにか意識されていることはありますか?
佐藤)デザインに対する誤解は、まだまだあります。例えば、デザイン家電とかデザイナーズマンションという言葉が一般的に使われていますが、では、デザイン○○以外のものは、デザインされていないのかというと、そうではなく、この世にあるものは、すべてデザインされているんです。僕の場合、クライアントとの会話の中で、自分が持つデザイン感をお伝えし、僕が考えるデザインは、どういうものかをまずは知っていただき、なおかつクライアントのこのみ考え、望みも深く聞きながら進めます。
世間ではデザインが特別扱いされています。デザインが特別扱いされているうちは、成熟した国とはいえないと思います。そういう意味では、デザインに対する概念が、一般の人まで十分に浸透していないのが今の日本の現状だと思います。全ての人がデザインに対する見識を持っているならば、私がデザインする必要もないわけですしね。多くの人がデザインの目をきちんと持つようになると、もっともっと生活は豊かになるのではと思っています。
--本日はお忙しいところありがとうございました。
BE ALL EYESの詳細については以下URLをご覧ください。
GLASS GALLERY 291
http://www.gg291.com/product/product1-4/product1-1-4.html
オリエント眼鏡
http://www.orient-opt.jp/
佐藤卓 / Taku Satoh
1979年東京藝術大学デザイン科卒業、1981年同大学院修了、株式会社電通を経て、1984年佐藤卓デザイン事務所設立。
「ロッテ キシリトールガム」「明治おいしい牛乳」などのパッケージデザイン、「PLEATS PLEASE ISSEY MIYAKE」のグラフィックデザイン、金沢21世紀美術館や国立科学博物館などのシンボルマーク、武蔵野美術大学 美術館・図書館のロゴ、サイン及びファニチャーデザインを手掛ける。また、NHK教育テレビ「にほんごであそぼ」の企画メンバー及びアートディレクター・「デザインあ」総合指導、21_21 DESIGN SIGHTのディレクターも務めるなど多岐にわたって活動。
http://www.tsdo.jp/
酒井 一 / Hajime Sakai
エスエスサカイデザイン代表
1950年福井県生まれ。
1970年フクイデザインクラブに入社。
1972年メガネフレームのデザインをはじめる。
1983年エスエスサカイデザイン設立。
1984年世界体操鯖江大会の入賞メダルをデザイン
1994年イタリア ミラノDMCで水島眼鏡のMIZシリーズを発表。
1995年MIZが通産省選定グッドデザインに選定される。
1997年伊勢神宮内宮ご鎮座2000年のシンボルマーク制作
2002年オリエント眼鏡よりBE ALL EYESを発表。
2004年エムテックオプチカルよりCELEBRAGEを発表。
2007年博眼よりZEKU:を発表。
http://bonten109.my.coocan.jp/