100~300工程あると言われるメガネの製造方法は今も昔も変わりません。そんなメガネ業界に「金型不要」という画期的な製造方法で業界に衝撃を与えた企業があります。メガネ枠メーカー「株式会社オンビート」。たった5名の小さな会社が、業界の常識を打ち破り開発から納品までの期間を大幅に短縮することに成功し、業界に新風を吹き込みました。
小さな会社だからこそ
-- 会社設立のきっかけを教えてください。
元々同じメガネ会社で働いたメンバーが、自分たちの納得するブランドをやりたいと2006年に独立し、メガネ製造の企画、デザインをする会社を設立しました。自社ブランド「Onbeat」(オンビート)に続き、現在は女性向けラインの「muet」(ミュート)も加わり2ラインのブランドを展開しています。
--ブランドのコンセプトを教えてください。
ずばり「大人のデザイン主義」です。
-- おお、なんかかっこいい!(笑)
と言いつつも、あまり難しいことを考えているわけではなくて、自分たちがいいと思えるメガネをきちんと作ることが大切だと考えています。なので「大人のデザイン主義」はいわば「本物のメガネを真面目に作ること」なんです。自分たちがやりたいことはたったそれだけ。すごくシンプルなことです。
課題に向き合う新たなものづくりのカタチ
-- 御社の金型がいらない画期的なメガネはどういった経緯でできたのですか?
(左)代表:高田政和氏
(右)デザイナー:遠藤雄光氏まず、メガネ業界の現状をきちんと把握するところから始めました。そうするといろいろな問題が見えてきました。まず1つは現在、世に出てるメガネは基本的には形と色の違いぐらいでしか差がないということ。というのも同じ工程、技術、設備で作っているので、どうしても大差のない製品になります。次に、消費者の価値が多様化したことで一度に作る枚数(生産ロット)が減り続けていることに対応できていないということ。そしてメガネの製造にはおびただしい数の工程(プラスチック枠は100~150工程・メタル枠は約300工程)があるため納期が3~6ヶ月ほど掛かってしまうこと。これらの問題がありながらなかなか改善できないのがメガネ業界の現状なんですよね。それで今までの工程にこだわる限り結局は何も変わらないと仮定し、それらの課題解決を考えていきました。
-- なるほど。メガネ業界の抱える課題を解決するところからスタートしたんですね。
いかに部品点数と製造工程を減らし納期を短縮させるかが第一のポイントでした。次に「金型をなくす」ことで生産ロットが小さくできるという発想が生まれました。メガネを作るときには同じパーツを量産するための金型と呼ばれる型が必要です。今までのメタルのメガネは金型ありき。部品数が多いと金型も多くなり、デザインを変えると新しい金型がまた必要になり、お金も納期もかかります。さらに高価な金型代を回収するためには、数を売るか、商品を高くしないといけません。じゃあ金型をなくし、部品点数を最小にすれば課題の解決ができるのではないかと仮定し、試作を重ねて完成したのが「Onbeat300シリーズ」です。
LESS IS MORE -より少ないことは、より豊かなこと-
-- 金型なしのメガネ。すごく興味深いです。どんなメガネなのでしょうか。
わずか約4gの軽さ
厚さ0.6mmのチタン合金製の板1枚で作るメガネです。まずは実際掛けてみてください。
-- おお、すごく軽い!顔を優しく包み込んで、まるでメガネを掛けてないようですね。(興奮!!)
軽いでしょう。余分な部品がないので一般的なチタン製メガネの1/3ぐらい、約4gの軽さです。だから長時間掛けても疲れません。
-- 確かに兆番(ちょうばん)もロー付け箇所もないですね。どうやって作るのですか?
厚さ0.6mmのチタン合金製の板から作ります.
簡単に言うと、チタン合金の板を図面に従ってレーザー加工で切り抜き、工具で曲げて立体的に加工します。あとは表面処理をしてパッド(鼻あて)とモダン(耳あて)を取り付けて完成です。金型がいらなくなり部品点数を減らしたことで工程数と納期の大幅な短縮ができ、通常3~6ヶ月かかる納期が2週間程になりました。それでもその大部分は外注の工程(レーザー加工・表面処理)です。将来的には3日でできるメガネも製造可能だと考えています。
Onbeat300シリーズ本当に画期的ですね。折り紙を折るような感覚ですか?
基本的にはそうですが、まずデザイナーがいろいろなことを緻密に計算してデザインをする必要があります。また曲げ加工も非常に難しく、大部分を手作業で仕上げていきます。掛けたときの感触、フィット感を考え、途中で何度も自分で掛けながら微妙な曲げを繰り返します。
--曲げ加工は自社でされているのですか。
自社で作っています。初めは大変でしたよ。製造メーカーさんにお願いにいくと「これは作れない」「こんなのメガネじゃない」と言われたりして。(苦笑)
なぜ作れないかと言うと、このメガネは今までの作り方とは全く違い、曲げ加工が多いので通常のメガネの製造工程に組み込めないというのが大きな理由でした。結局どこに行っても断られたので、じゃあ自分たちで作ろうじゃないかということになりました。
職人が一本一本手作業で仕上げていきます.
--新しい試みなのに手仕事が多い感じがおもしろいですね。ハイテクなのにローテクなような。
その通りですね。自分たちのやり方はメガネ産業の構造を進化させているわけではなくて、むしろ戻しているんですよ。といっても今あるメガネの工程を決して否定しているわけではありません。大きな会社の対極にいる僕らはユーザー一人ひとりの理想のメガネを作ってあげることが使命だと考え、どんな形、色、大きさでも応えられるようなものづくりを目指しています。
密なチームワークだからこそできること
社内の様子--少数精鋭の強みとは。
小さな会社なので作業中でも気づいた時に皆で議論できる風通しの良い環境があるのはいいですね。金型をつくるリスクがないのでサンプルもすぐに作っちゃう。皆が自由に発想し、基本的に「NO」はない。だからどんなことでも前向きに取り組めること、すぐに実践できること、このムードがうちの会社の一番の財産ですね。
--最後に今後の展望についてお聞かせください。
今までのメガネとは違う製造スタイルが確立できたので、これからはユーザーの声に対して、いかに早く忠実に応えてあげられるか、いかにユーザーとの距離を縮めるかが課題ですね。実際どんな細かい要望にも短期間で応えられる技術、方法が少しづつ見えはじめてきたので、無限の可能性を感じています。
-- 本日はどうもありがとうございました。
株式会社オンビート / Onbeat inc.
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FAX. 0776-58-2007
WEB. http://www.onbeat.jp/