軽くてさびにくいと言った特性を持つ素材・チタン。鯖江ではチタンをいち早くメガネに活用してきました。扱いが難しいとされているチタンを、様々な方法で精密に加工する技術を鯖江のメガネ産業は持っています。「チタンクリエーター福井」は、この技術力をもっと国内や世界にPRしていこうと、チタン加工を専門にするメーカーの有志が集まって結成されました。会社の垣根を越えてタッグを組む「チタンクリエーター福井」にお話を伺いました。
隠れた技術
素材であるチタン--みなさんはそれぞれ普段は別々のメガネメーカーでお仕事をされているんですよね。こうやって夜に集まって会議をされているんですか?
西)全員で集まるのは毎月1回の定例会で、今日はその前準備の役員会です。
-- 「チタンクリエーター福井」には、現在どれくらいの会社がメンバーになっているんですか?
西)現在は7社ですね。
北)2009年に結成して現在3年目ですが、結成当初は5社でした。
スウェージング加工によって引き延ばされたチタン。酒)7社とも勿論、チタン加工を専門にしている会社ですが、その作業工程はそれぞれ違っていて、7社が集まれば一通りの工程ができるようになっています。
-- 作業工程にはどのようなものがあるんでしょうか。
酒)まずは「素材」ですね。チタンにも色々な種類があるので、受注に合った適切な素材を用意する工程です。その次に、「スウェージング」という工程です。簡単に言えばチタンを引き延ばして叩くような加工です。メガネで言うとテンプル部分にこの技術が使われますね。
飛)このスウェージング加工はうちの社で行っています。
酒)それから、西村さんのところでやっている「切削」や、以前メガネザンマイでも紹介されていた服部さんのところでやっている「プレス」加工を経て、段々形にしていきます。それから「曲げ」「レーザー」加工をして形を作る工程は終わりです。
北)「曲げ」「レーザー」と、この後の工程の「研磨」はうちの社でやっています。
-- 形を作った後には、どういう工程が待っているんですか?
このように細かい部品も、切削やプレスで作ることが出来る。酒)パーツを分けて作ったものは、「ロー付」という接着方法で接合します。チタンは高温でのロー付でないと接着しない難しい素材なんですよ。
飛)最後に「研磨」とメッキ等の「表面処理」をして完成ですが、この工程もチタンでは出来ないと思われてきた加工なんです。チタンは世に出てまだ50年という新しい素材で、「難加工材」と呼ばれるくらい扱いが難しい素材です。
-- じゃあ、今説明して頂いた全ての工程は、実は凄い技術なんですね。
飛)メガネ作りで培ってきた技術力ですね。私たちは、この技術力を「隠れた技術」と呼んでいます。メガネ業界にいると、こういったチタン加工技術が当たり前で、すごいことなんだというのが改めて分からなくなるんですよね。でも他業界から見ると私たちがやっていることって実は凄いことで、もっとわかりやすくPRしていけば、他業界でもこの技術を広めていけると思っています。
-- なるほど。「チタンクリエーター福井」としては、メガネ以外の分野でチタン加工を行ってるそうですね。
扱いの難しいチタンを特殊な方法で曲げている。飛)そうですね。普段はメガネ作りをしているけど、みんなで集まったときは違うことをしてみよう!という思いがきっかけです。
北)他業界でもチタン加工が注目されれば、メガネ産業だけじゃない、チタンという新しい地場産業を生み出せるんじゃないかと思っています。
-- ちなみに今まで「チタンクリエーター福井」として、どのような業種のお仕事を受けてこられたのですか?
酒)多いのは医療分野ですね。あとは、航空機の精密部品から釣り針、ジュエリーまで様々です。
-- ちなみに今まで「チタンクリエーター福井」として、どのような業種のお仕事を受けてこられたのですか?
酒)やっぱり違いますね。メガネもそれなりの精度を要する部分もありますが、医療や特に航空機は、本当に精度が厳しく求められます。
飛)今までのメガネ作りで、チタンの特性は知り尽くしてきたから、オーダーによっていろいろなアドバイスをこちらが提案できる時もあります。
昨年横浜で開催された様々な製造業が集まる展示会「テクニカルショウ」の1イベントとして行われた「全日本製造業コマ大戦」にエントリーされた、チタン製の逆さ駒。コマがぶつかり合って、弾き飛ばされたほうが負けというルールですが、チタン製なので軽くて勢いよく弾き飛ばされるそう(笑)。しかし、このコマもある意味「隠れた技術」のPRなんですね。
チタン加工=鯖江
--「チタンクリエーター福井」に、発起人はいらっしゃるんですか?
(上)写真左が、会長の西村昭宏氏、右が営業・事務局グループチーフの酒井朋樹氏
(下)写真左が、製品開発グループチーフの飛山昌久氏、右がウェブ・展示会グループチーフの北野徳和氏
酒)私ですね。
-- そもそも、どうして「チタンクリエーター福井」を立ち上げようと思われたんでしょうか。
酒)異業種向けにチタンをPRできる展示会というのがあるんですが、この「チタンクリエーター福井」を結成する前までは、それぞれ会社として単独で出展をしていました。しかし、「チタンでこういう加工はできる?」と聞かれても、うちがやっている工程ではない部分はすぐにはお返事ができなかったり、出展のコストもかさむという問題点がありました。そこで、同じチタンを扱う会社が一緒になって出展すれば、その場でいろんな加工に応じることが出来、注目もされるということで、各社に声をかけました。
-- なるほど。そういった経緯があったんですね。
飛)きっかけこそ、そういうものでしたが、今では私たちが窓口になって地場に仕事を持ってきたいという共通の思いがあります。
北)最終的には「チタン加工は鯖江だよね。」と言ってもらえるような地場産業にしたいんです。
-- メガネ業界で、こういった会社の垣根を越えてチームを組むというのは珍しいですよね。しかもチタン加工というある意味ライバル同士でタッグを組むというのは勇気がいることじゃないですか?
飛)同業者だからこそ、話し合いの持てる場があるのはとてもいいことですよ。こうやって集まった時には、近況報告をしたり、自分の会社でやっている仕事での相談をみんなに聞いてもらったりもします。
酒)タテのつながりが強いメガネ業界ですが、ヨコのつながりを持てるのはいいですね。勿論意見が合わないことはしょっちゅうありますよ(笑)。
北)なにごともオープンに話していかないとチームとしても個人としても向上していきませんからね。
-- 「チタンクリエーター福井」としての活動を行なって3年ということですが、この活動を行うことでそれぞれの会社に反響はありますか?
飛)自分の会社に利益があるかどうかよりも、この7社が集まって何を生み出せるか、チームのため、自社のために何ができるかを考えるようになりましたね。
酒)今までは精度や納期など、メガネ業界の基準で仕事をしてきました。しかし「チタンクリエーター福井」で異業種と接するようになって、まだまだ仕事の仕方が甘いなと痛感させられます。私を含めて参加している7社は、他業種の基準も視野に入れて技術を確実にレベルアップさせていると思います。
-- それでは、最後に「チタンクリエーター福井」としての夢をお聞かせください!
西)昨年度「チタンクリエーター福井」として800万円の受注がありました。今年度は年商150%増、来年度は年商1億円を目指しています!
酒)やはり世界進出です。昨年、中国の展示会に出展してまだまだPRの余地があるなと感じました。
飛)先ほど、私たちが窓口になって、地場に仕事を取ってこれるようにと言いましたが、取ってくるだけでは結局どこかの会社と仕事の取り合いをしているに過ぎないんですよね。だから、今後の夢は今ある市場だけではない、新しい市場を作り上げていけたらと思っています。
北)私はウェブを担当しているのですが、世界に向けて英語版や中国語版のサイトを立ち上げたいですね。また、Facebookなどのソーシャルネットワークを使い始めてから一気に問い合わせが集まったので、今後もそういったツールを使って「チタン加工=鯖江」をPRしていきたいですね。
-- 本日はありがとうございました。
チタンクリエーター福井
TEL.0778-53-0810
FAX.0778-52-5085
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