鯖江メガネファクトリー

洞口 晃
アンティークメガネ

今回は視点を変えて、メガネのコレクターに迫るメガネザンマイです。市内眼鏡会社に勤める洞口晃さんは、10年以上前からアンティークメガネの収集を行っておられます。そのターゲットは、丸メガネのみ!というこだわりようです。お話を伺うと、丸メガネの知識のみならずメガネにまつわる時代背景も、とても分かりやすく知ることが出来ました!


メガネコレクターとは?


洞口 晃 氏洞口 晃(ほらぐち あきら)さん

アンティークメガネ「平眼鏡(ピンヤンジン)」と呼ばれた中国の清朝の時代のメガネ。当時の中国では、メガネは医療器具というよりは身分の高い人が装飾品として使用していたそう。レンズが大きい程地位が高いそうです!

-- 洞口さんはアンティークの丸メガネをコレクションなさっているということですが、どうして集めようと思われたのですか?

もともと歴史や文学が好きでよく本を読むのですが、昔の歴史上の人々は皆さん、丸メガネを掛けていますよね。そこから興味を持って、各年代の本物を集めてみようと思いました。

-- 確かに、昔の人=丸メガネというイメージがありますね。

当時は、今とはメガネの作り方が全く違っていて、先にレンズありきで、そもそも丸いレンズに合わせてフレームを作っていたので、丸いメガネしかなかったのです。部品も多くが手作りで手間暇がかかっているのが伺えます。

-- 集めておられるメガネは、いつ頃のものなんですか?

主に昭和初期のものですね。もっと古いものもありますよ。

-- コレクションの数は何枚ぐらい?

300枚ぐらいです。部品だけのものもありますし、小売店のパンフレットのような資料的なものも収集しています。

-- ちなみに、お持ちのコレクションの中で一番古いものは?

幕末のものでしょうか。当時はテンプルがなくて紐で耳に固定していました。

-- 貴重ですね。どういうところから収集して来られるんですか?

骨董屋さんが主で、他には昔からある宝石時計店も穴場ですね。宝石時計店にはメガネも一緒に販売しているところもあって、商品の入れ替わりがメガネ専門店ほど頻繁ではないので、古いメガネが残っていたりします。

 

丸メガネ越しに見る時代背景

アンティークメガネ明治〜大正初期に作られていたメガネたち。

-- ではお持ちの眼鏡を時代ごとに紹介して頂けますか?

はい。まずは、先程も紹介した幕末〜明治初期の眼鏡です。当時は真ちゅう製のものが多く、テンプルは紐で作られていました。その後、欧米から眼鏡が輸入された影響で、明治〜大正初期は玉型が小さめ、また正円から小判型のレンズに形が変化してきました。

-- 当時の眼鏡の値段はおいくらぐらいなんでしょうか?

当時でおよそ現在の1万〜2万円の物が多く、今の国産のメガネとほとんど変わりませんね。ちなみに、素材は赤銅(銅に3%〜5%ほどの金を混ぜた合金)や真ちゅうが多く、銀やメッキのメガネなど素材のバリエーションも広がってきていますね。赤銅のメガネの肌に当たる部分には、汗が原因の劣化を防ぐ為に金が貼られています。

アンティークメガネ大正〜昭和初期に作られていたロイドメガネ。

-- なるほど。金は肌にも優しいんですよね。

はい。当時、アメリカから金張りのメガネや(銅線に金を張って圧延した物)セルロイド枠製造の技術が導入されて、赤銅メガネの生産は次第に減っていきました。

-- 大正からはどのようなメガネが登場するのですか?

正円型のセルロイドのメガネです。当時はロイドメガネと呼ばれていました。昭和に入ると戦争の長期化に伴い金属が不足していきました。メガネ作りにもそれまでのような金属を使用することが制限されて、そこでセルロイドという素材が注目され、昭和の初めには玉型の大きい丸いセルロイドメガネの生産が主流になっていきます。私は、このロイドメガネが丸メガネの中でも一番気に入っています。

アンティークメガネ アンティークメガネ海外から輸入されたサングラス(上)と、当時台頭してきたボストン型のメガネ(下)。丸メガネと比べてみると、今までの常識が覆されそうな斬新なデザインですね!

-- 洞口さんが掛けていらっしゃるのも当時のロイドメガネですか?

これは昭和10年頃のものです。昭和20年代から段々丸メガネの生産が減っていきます。戦後は海外から大量にメガネが輸入されて丸メガネ以外の様々なデザインのメガネが市場に出回るようになり、丸メガネは時代遅れになってしまったんです。

-- たしかにこの時代のメガネは今でも売っていそうな馴染みのあるデザインですね。

当時は丸形に変わってボストン型が主流になっていきます。今ではおなじみのボストン型ですが、終戦時、飛行機のタラップから降りてくるマッカーサーが掛けていたレイバンのドロップ型のサングラスを見て、それまで丸メガネしか知らなかった日本人は衝撃を受けたに違いないと思いますよ。

 

 

 

アンティークメガネ明治〜大正初期に作られていた赤銅製のメガネには、このように肌が触れる部分に金が貼られていた。

メガネコレクターの苦労…

-- 洞口さんは会社ではどのようなお仕事を?

アンティークメガネ

メガネの製造に従事しています。趣味が転じて、メガネに関わる仕事で食べていけたらと思い、1年ちょっと前に入社しました。

-- 入社をきっかけに鯖江に引っ越されたそうですが、コレクションは全て一緒に持って来られたのですか?

はい。引っ越しの際に岐阜の実家からほとんどのコレクションを福井に持ってきました。実家に置いておいても誰も手入れしてくれないでしょうから(笑)。家族は、私の趣味を白い目で見ていますよ(笑)。

-- メガネのコレクターというのはなかなか珍しいですからね。メガネコレクター仲間はいらっしゃるんですか?

アンティークメガネナチスドイツが使用していたメガネとメガネケース。「Masken Brille」とは「覆面メガネ」という意味。ガスマスクの下に装着しても使いやすいようにテンプルがゴム紐になっています。

いますよ。全国のいろいろなところに10人程知り合いがいます。私のように鑑賞する為に集めている人、自分が掛ける為に集めている人、昔のメガネの資料を集めている人など色々なコレクターがいます。収集したメガネを交換したり、その他いろいろな情報交換をして交流を楽しんでいます。

-- 是非皆さんの知識を集結して、当時の眼鏡についての本を出して欲しいです!

自費出版をしたいという話はありますね。ただ、当時の国内の眼鏡に関する資料がほとんど無いので物証の裏付けが取れないのと、お金の問題がありますが…(笑)。

-- なるほど。歴史の背景を通してメガネについて知ることがとても新鮮で分かりやすかったので、是非その知識を多くの人と共有できるように本にして欲しいです。他には収集される中で、苦労する点はありますか?

アンティークメガネ アンティークメガネ当時の眼鏡道具「枠伸ばし機」(上)。このようにフレームを温めて、レンズを入れる為の道具。当時のメガネに関する資料(下)は、国内のものは少なく大変貴重なのだとか。

品質を保持することですね。セルフレームの眼鏡はこまめに空気にあてて手入れをしないと、劣化して腐っていくんです。せっかく見つけた眼鏡も、手で持っただけでボロボロになってしまうものもあって、そういうときはがっかりしますね。

-- 劣化を防ぐ方法はあるのですか?

とにかく良く乾燥させることですね。たまに箱から出して新鮮な空気に触れさせたり、手で触ってあげると持ちが長くなります。ですから新品で大事に保管されていたメガネより、人が長く使ってるメガネの方が状態が良かったりします。

-- ただ集めるだけではコレクターはつとまらないのですね。では最後に、そんな洞口さんを惹き付けるアンティークメガネの魅力とはなんでしょうか?

やはり、作りが今のメガネと全く違うところ、当時の時代背景が想像出来るのも面白いです。当時はデザインの制約が多くて、丸メガネしか作ることが出来なかった中で、これだけのバリエーションがあるのも見ていて飽きませんね。

-- 本日は有り難うございました!

※情報は取材当時のものです。 <取材日:平成23年2月25日>

洞口 晃 氏
  • 洞口 晃 Akira HORAGUCHI
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