タナカフォーサイト株式会社は、メガネのパッドや箱足などのパーツを製造する会社です。昨年のIOFTでは、自社で開発されたトウモロコシのでんぷんから作られたメガネ(E-spectacles)を発表されています。今回は社長の田中聖太郎氏にお話を伺いました。メガネ業界の明るい話から、楽しい会社経営の極意まで、大変濃い内容となっています。
バイオな会社。
タナカフォーサイト株式会社 田中 聖太郎社長
トウモロコシのでんぷんから作られた樹脂。お米のような乳白色で、とてもトウモロコシとは思えません!
-- 御社には昨年のIOFTの会場で取材を受けて頂きましたよね。
そうですね。トウモロコシのでんぷんから作ったセルフレームを会場で紹介していました。
-- もともとは、メガネのパーツ屋さんなんですか?
はい。主に鼻が当たる部分(パッド)やその金具(箱足)を製造販売しています。
-- トウモロコシのメガネは、いつ頃から開発されていたんですか?
15年くらい前ですかね。京都の島津製作所さんからバイオを軸にした素材開発を考えているというお話を頂いて、開発を始めました。初めは、完成してもウエハースみたいにスカスカだったりメガネになるとは思えなかったんですが、今では普通のセルフレームと違いがほとんどありません。
-- 以前取材させて頂いた際、トウモロコシのメガネは普通のセルフレームのメガネと比べて、肌に優しく抗菌性もあって安全で、変色や傷にも強いということを伺いました。そもそもどうしてそのような素材を開発しようと思われたんでしょうか?
私自身が重度のアトピー性皮膚炎なんです。21歳の時に突然なってしまい、26歳頃は特にひどく入院をしなければならないほどでした。その辛さを知っているので、バイオなメガネを作りたいと思いました。現在、染料や接着剤も肌に優しい自然素材のものを開発しています。
技術大国・日本を世界に。
-- メガネ以外にも色々な分野の開発をされているんですね。
私はアイデアを思いついて、開発は他の会社のエキスパートの方と一緒に行っています。先程お話した染料も栃木にある会社の社長さんに助けてもらいながら開発しています。
-- 色々な分野の方との繋がりがあるんですね。
相手の会社も個人の小さな会社だから、私が提案する突拍子も無いアイデアでも社長さんが自ら話に乗って行動してくれますからね。それが大手になると、社長がわざわざ手を動かしてくれるなんてことはまず無いですからね。それに、ものづくりの会社の社長さんはすごい技術を持っているから私の無理難題にも答えてくれるんです。命がけでやってくれますからね。
-- なるほど。他にも御社で開発された商品はあるんですか?
最近ではよく見る2mmの小さなLEDも実はうちが最初に作りました。あとは県外の商社が権利を持つ有名なスポーツ選手が身につけているスポーツネックレスもうちが作らせてもらいました。ただ、単価の問題で今は別の会社が作っていますけどね(笑)。開発だけではなく、日本の製品を海外のマーケットに売り込む商社のような仕事もしています。
-- 自社製品だけでなく、他社の製品も売り込むんですか?
はい。毎年米の収穫時には海外の個人に対してですが、日本のお米を売っていますよ(笑)。日本のお米は特においしいらしくてちょっと値が張ってもどんどん買ってくれるんです。メガネもそうです。鯖江のメガネは、海外のマーケットでは高額ですが、ニーズはとてもあります。日本は世界に誇れる色んな技術を持っているんです。でも、広くPRする前にどこかで埋もれてしまう。隠さずにどんどん売り込んでいく行動力が必要ですね。
社名でもある「フォーサイト」とは「先見性」という意味なのだそう。社長にぴったりの言葉ですね!
動かないとダメ。
-- 最近、メガネ業界は海外の安いメガネに押されていて暗いニュースが目立ちますが、社長のお話を伺っていると光が見えてきますね。
これは私の考えですが、中国のメガネ工場はこのまま行くと縮小していくと思います。現にわが社の中国工場の機械設備を40%位日本に戻し国内生産を始めました。メガネだけでなく、中国という国はものづくりが育ちにくい所だと思います。
-- それはどうしてですか?
昔のように中国の工場に人が集まらなくなっているんですね。今、中国は経済的にどんどん成長していて、その時代を生きている今の若い人たちは割と豊かな生活をしているんです。そこでいざ就職となった時に、選択肢が増えているので、わざわざ工場で働きたいとは思わない人が増えてきた。多少お給料が安くても、デスクワークやもっとお洒落な仕事を選ぶんです。また、急速な経済発展とともに国民の生活や収入、考え方が大きく変わってしまっています。また、プライドの高い中国人はすぐにローテクの仕事は捨ててしまう気がします。今は政府もそのような仕事は歓迎しません。
-- なるほど。世界と繋がりを持ち続けている社長だからこそ見えてくる実態ですね。
だから、いずれまたメガネの製造は日本に集中してくると思います(希望ですが、)。その時のために後継者を育てて鯖江の技術を残していかないと。鯖江産地の体力勝負ですね。
-- ぜひまた鯖江のメガネがフューチャーされてほしいですね。
でも、待っているだけではダメなんです。今の現状を嘆いているなら自分から動いて仕事を取っていかないと、どんなに素晴らしい技術を持っていても気がついてもらえませんからね。
食べてみないとわからない!
-- 社長はどうしてメガネ業界に入られたのですか?
祖父の代からずっとメガネ屋さんをしていたんです。もともとずっと部品業をしていたんですね。
-- なるほど。今では海外のお客様も多いようですが、社長の代になってから、海外と繋がりを持つようになったのでしょうか?
事業を始めたのは私の代からですが、海外に目を向けるようになったのは父の影響が大きかったように思います。父のすごい所は、ビジネスとしてメリットが無くてもうちに来られたお客さんには誠意を持って手厚く対応をしていました。常に一期一会という考えがあったのだと思います。中には海外からいらっしゃる方もいて、「もう二度と会えないかもしれないから、沢山話をして福井のいい所をできるだけ見せてあげたい。」とあちこちご案内をしていたみたいです。お客さんの中には、そのことをずっと憶えていて、今になって「やっと一緒に仕事ができますね。お父様には大変よくして頂いた。意思を継ぐあなたなら大丈夫。」と信頼して仕事を持ちかけて下さる方も沢山いらっしゃいます。父が残してくれた一番の財産ですね。
-- 素晴らしいお話ですね。
父は食べるのも好きで、それは私も引き継いでいて、会社の慰安旅行では私が事前にレストランをリサーチして普段行かないような美味しい所にみんなを連れて行ってリフレッシュしています。また、女性社員には2〜3カ月に一度お小遣いを渡して、おいしいものを食べるのに使い切ってもらっています。
-- わ〜!それは良いですね!入社したいです(笑)。
色んなものを試しに食べてみる機会は大切だと思います。実際に食べてみて自分に合うかどうか判断しないと。仕事も同じですね。それにやっぱり働いて良かったと思える会社にしたいですしね。
-- とても楽しそうな雰囲気の会社だと思います。最後に、今後の展望をお願いします。
まずは、トウモロコシのフレームを拡大していきたいですね。とくに鯖江のメーカーとタッグを組んで商品を発表していきたいです。そして、MADA IN JAPANをもっと残していきたいです。
-- 本日はありがとうございました。