メガネを購入する際に、フレームのデザインに目がいきがちになるが、是非レンズにも注目していただきたい。レンズによって眼への影響が全く違ってくる。レンズによって見える世界が変わる!そう感じずにはいられないレンズに関する豆知識を盛り込んだ面白いお話を伺うことができた。今回は、レンズメーカー株式会社乾レンズで働く嶋田義隆さんと吉田圭助さんを取材した。
時代、流行にあったレンズの提案
-- お二人がこのお仕事に就いたきっかけを教えてください。
嶋)私は単純にサングラスが大好きだったので、眼鏡関係の仕事につきたいと思っていました。サングラスはレンズによって機能が変わってくるので、レンズって面白いなと思ってレンズ屋さんに入ったという感じです。それからあっという間に10年が経ってしまいました。
吉)私は、大学では建築を学んだのですが、両親がメガネ関係の仕事をしていて、小さい頃メガネのパーツでよく遊んでいました。その時の工場のニオイをよく覚えていて忘れられずにいました。自分が将来長く勤めることを考えてやっぱり小さい頃によく見ていた仕事を自然に選ぶようになりました。レンズ会社は本当にたまたま就職したのですが、父はレンズ加工もしていましたので、仕事をしている後姿を覚えていますね。
-- 御社のレンズは本社・大阪で製造されているのですか。
嶋)そうですね。本社の大阪で製造しています。私たちも大阪の工場にたまに行き、製造現場を見て勉強しています。
-- お二人のお仕事は営業ですか?
吉)そうです。営業は鯖江で3名、大阪にいる社長とチーフ2名を合わせて5名で動いており、主に関西、関東中心です。
-- レンズの営業では具体的にどのようなことをされるのですか?
嶋)少し前まではサンプルブックといって色々な種類のレンズを大きなカバンに入れて持っていったのですが、今は、ホームページを作りまして、商談の際にホームページを見ながら色のセレクトなどをその場で簡単に行っています。その他フレームとのコーディネートや素材についても検討します。
吉)昔と比べて大きく変わった点は『提案型』の営業になっていったことです。以前はお客様からの「このような色が欲しい」という注文によって商品ができてきたのですが、方向転換をしました。やはりメガネの産地鯖江という土壌で常にブランドによってイメージカラーがあって時代の流行によって変化してきているのを現場で見てきているんですね。つまり自分たちが一番カラーについては最先端をいくのではないかという思いを持って、営業においてもこちらから提案させていただくようになりました。レンズは枠ありきで、枠はレンズありきなんですね。「こういうものが流行っている」とか、逆に「こういったものが無いよ」と相互に提案していきながら、良い商品に反映していけるようにしています。
-- 色の流行は変わってきますか?
嶋)そうですね。昔はブルーやイエローが流行っていましたが、今はダークな色が流行っています。ブラック、ブラウンですね。
-- レンズの種類は何種類あるのですが?
嶋)プラスチック、ガラスなどを含めて4〜5種類ですね。カラーレンズのCR-39、ガラス、トライアンガラス、ナイライトSPなど素材を扱っています。縁なし用レンズから、眼にまったくストレスをためない素材を提供しております。あと弊社オリジナルで「ハイドコート」という特殊コーティングを使ったレンズもあります。(特許申請中)
--お客様の要望と合わせてその素材の中から提案していくということなんですね。
吉)そうですね。やはりうちの場合、レンズありきのフレームですから、そのフレームではこの素材のレンズの方がトラブルは起きにくいというようなことをお伝えします。やはり素材選びでは製造過程のトラブル回避は考慮しなければいけないですから。もちろんお客様の譲れない部分もありますので、それと擦り合わせながらいいものをつくるように心掛けています。
--もしお客様の要望に合わない場合には新素材の開発をすることもあるのですか?
吉)ナイライトSPは縁なしのツーポイントが流行ったときに、穴をあけられる素材として開発しました。
高級サングラスレンズのこだわり
-- 安価なサングラスと高級なサングラスで使われているレンズの違いはどこにあるのですか?
嶋)紫外線をカットするかしないかが大きな違いです。安いのは、大量生産ができるアクリルかポリカーボネイトという素材を使っています。これらの素材はどうしてもゆがみがでて、眼に負担がかかってしまいます。
--視力が悪くなることもあるのですか?
嶋)そういったこともありますね。ガラスレンズのサングラスをかけている人がアクリルのサングラスを掛けたときに、歪みでちょっとクラクラするという話も聞きますね。
--はじめから安いサングラスをかけている私は、今までどれだけ眼に負担がかかっているのか意識していなかったので、とても驚きです。
吉)そういった方も多いですね。国民性もありますが、アメリカではブルーアイの方が多く、もともと眼が弱いですから、眼に対する意識が日本より随分高いですね。日本ではガラスは重い、割れるというデメリットばかりが先行していますが、アメリカではサングラスレンズといえば、ガラスが定番です。
乾レンズオリジナル消防士専用のサングラスカラーレンズの重なりによってカラフルに
--やっぱりガラスというのは歪みが少ないのですか?
吉)ほとんどゼロですね。歪んだ場合は割れるんです。
--ではここの一押しの究極のレンズを教えてください。
嶋)先程もお話ししましたガラスレンズ、CR-39を使った偏光レンズがクオリティーも高く一番メインでご紹介しています。
吉)CR-39は染色で色を付けます。ガラスは実は染色では色がつかないのです。じゃあなぜ色がついているのかというと、ガラスのドロドロした状態の中で金属を入れて色を付けてきます。ガラスの特徴に繋がるポイントは、可視光線域の中で色の調整をすることができることです。極端にいえば、ガラスは金属の配合によって、青信号を赤信号に変えることもできるんです。これを利用してグリーンだけを際立たせることもできるんです。釣りをされる方には海の底まで見るような偏光レンズもこれを利用して作っています。一度お見せいたしますか?
--はい!是非みせてください!
偏光レンズでグリーンが目だつ
嶋)これがそうですね。これはグリーンが目立つレンズのサングラスです。
--わーすごく緑が際立ちます!しかもすごくクリアに見えますね。
嶋)そうなんですよ。
--そんなに重くもないですね!
嶋)実際にかけてみないと分からないですね。本当にきれいに見えます!
--御社ではこのレンズの部分だけを作っているんですね?
吉)そうですが、今はそのレンズだけの状況から脱却しようとしています。レンズありきのフレームですので、レンズ屋が考えるフレームというものも作り出していこうとしております。
--他に御社ならではのこだわりはありますか?
吉)質の伝え方もこだわっています。UV400とあっても消費者の皆様にはよく分からないですよね。そこでこの意味をより分かりやすいようにUV400というのにプラスして、化粧品メーカーさんでも使われているSPF50+、PA+++を合わせて、紫外線防止の効果があるということ明確に消費者に伝え、商品に対して安心感をもってもらうようにしています。このように他社と差別化をして、我々の商品に付加価値を加えています。
--ちょっと話がずれるのですが、最近話題になっているアバター(3D映画)のサングラスの仕組みってどうなっているのですか?(笑)
吉)仕組みご説明いたしますか?大変難しいんですよ。昔は左右の違う赤と緑のレンズで3Dに見える仕組みだったんですが、それがより複雑になり、光の波長を利用した偏光方式という方法が最近よく使われている方式です。人間は右目と左目で見るときのズレによって、物体の距離を測ります。偏光方式では、右目と左目とで違う情報を入れ、その誤差で立体感が生まれるようにしています。
--では今後にお二人の展望をお聞きしたいです。
嶋)サングラスにも沢山ブランドがある中で、「このブランドが好きだ」と言ってもらえるような、セールスポイントのあるサングラスを市場に出していきたいです。僕は形を決めてから、一から最後まで一貫してサングラスを作りたいです。
吉)レンズを主体とした日常使うメガネを、消費者の人たちが「いいもの」であると納得して使っていただけるといいなと思います。ブランドに頼らない、機能としての価値でトップを目指していきたいですね。
--本日はお忙しい中、ありがとうございました!