独特なカットや大胆なフォルムが特徴のブランド「Factory 900」。そのデザイン、製造、セールスを一手に手掛けている青山嘉道氏(青山眼鏡株式会社)をご紹介します。青山氏は鯖江市が行っていたデザイン講座(SSID)※1の修了生。そこで講師であった川崎和男氏に出会い、デザインの意味、可能性を学び、その後は独学でメガネデザインを学ばれました。
※1 SSID=鯖江市立インテリジェントデザイン講座。福井県出身のデザインディレクター川崎和男氏をはじめとする多くの講師陣を迎え、平成元年から17年間開講。”大嫌い”なメガネのデザイナーに。
青山嘉道氏
-- まず、このメガネ業界に入ったきっかけは?
もともとメガネは大嫌いでしたね。家業がメガネ工場で、小さい頃からすぐ横には工場があって、メガネ業界のいい時も嫌な時もそのギャップも見てきたから。メガネ屋にだけはなるものかと(笑)。それで、もともとは漆器屋さんに就職して営業をしていたんですけど、それも辞めたんです。そのとき家業が忙しくてアルバイトで入ったのがきっかけです。
-- 実際に働いてみて、子どもの頃に思っていたメガネ屋さんのイメージとは違いましたか?
全く違いましたね。すごいことをしてるんだなって改めて気付いたり。逆に、技術は良いものをもっているのにもったいないと思うこともたくさんありました。
「Factory900」の名前の由来は、本社の工場番号である“900”番だそう。
-- SSIDに参加されたのは?
ちょうど会社にSSIDの一期生がいて、いろいろ話を聴いて軽い気持ちで受講することになりました。しかし、そんなに甘いものではなかった・・・(笑)一回目の講義を聞いても何を言っているのかさっぱり分からなかった。「今日の講義聞いて頭痛くなったやつ、手挙げろ。」って言われた時はもう即挙手しました。そしたら手を上げているのは僕だけでした(笑)。
-- その講座がきっかけでメガネのデザイナーを志したのですか?
何回目かの講義で、立方体を描くっていう授業があって、それが久しぶりに絵を描いた瞬間で、楽しくて楽しくて。多分そこからですね。どっぷりデザインにのめり込んでいきました。講座を修了したあとも、当時の講師の方々と毎週のようにデザイン談義というか喧嘩というか(笑)。今ではさすがに少なくなったけど、その関係は続いています。
-- 講座を受講した中で、今も影響している言葉ってありますか?
「考えることを止めない、終わりはない」ってことですかね。完成したと思ったらそこでおしまい。でもメガネは形にしないと意味のないものだから、答えを出さなきゃいけないですよね。答えなんてないんですけど。だから一年に一度出す新作というのは自分がその時点までに培ってきたもの、積み上げてきたものの中での自分なりの回答だと思っています。
少数派でいたい。
青山氏によるデザインスケッチ
-- デザインはどのように考えていらっしゃるんですか?
初期の頃は、機能を重視していました。すべて形には意味があるって教わっていましたから。なんでこの形なのか、この形にする必要があるのかって。でもだんだんアプローチの仕方も変わってきていて、今ではいろいろなんです。絵から入っていったり、かっこいい、新しい、キレイっていうスタイリングから入っていったり。思いつきも多いです。僕はアナログ人間なので、パソコンじゃなくて手を動かして考えます。スケッチで描いたりモノをつくって考えたり。僕にとってはヤスリも鉛筆も全ては手の延長線なので、同じ感覚ですね。
-- 青山さんのメガネは、なかなか独特の形をしていると思うんですけど、インスピレーションはどういったところから受けますか?
結構よく聞かれるんですけど、わからないんですよね(笑)。あまり意識したことはないんですけど、多分、無意識に今までに見てきたものとか経験とかストックされたものを引き出しているんだろうな、とは思います。あとは失敗したものが逆にかっこ良く見えて、ヒントになったりとか。つくっていく過程でどんどんイメージは変わっていきますね。
-- 青山流のデザインはどういったところに現れるのでしょうか?
人に言われるのは、立体感、重量感、未来的、かっこいい、男らしいとかいろいろですけど、それを自分で意識しているのかっていうとわからないですね。ただ、はじめの頃は、セルフレームメガネに対して喧嘩を売ろうとしていました。当時、セルのメガネってどれもデザインが似たり寄ったりで、クセのないものばかりっていう印象を受けたんです。それで自分たちじゃなきゃ出来ないことをやろうって思いました。そこが「らしさ」なのかなって思います。
-- お仕事されていてスランプはありますか?
しょっちゅうです。嫌になることもあるし。ただ、アイデアが出なくて困るということはないですね。まだやっていないこともたくさんあるだろうし、やりたいことは尽きないですね。それをコストとか、時間とか、技術とか、あとは嫌な話なんですけど、売れるのかっていうところで、実現出来ない時に悩みます。必ずしも、売れるデザインが良いというわけではないというか、売れないデザインがあっても良いとは思うんですけどね。
-- ずばり、スランプ解消法は?
難しい質問に、言葉を選んで答えて頂きました。
お酒かな(笑)。お酒を飲みながら、デザイン談義・メガネ談義はしょっちゅうです。小売店さんともよく飲みます。
-- では、逆にやりがいを感じる瞬間は?
ユーザーさんの声を聞くときですね。小売店さんからは、どんなお客さんが買っていかれたか細かくお話を聞かせてもらえますね。僕のメガネを買うために、離島から船で何時間もかけてお店に来たり、学生さんがバイトで貯金をして買いにきてくれたりとか。そう言う話を聞くと、すごく嬉しいです。やって良かったなって思います。「いいもの」って作り手だけでも実現しなくて、売り手さんや買い手さんがいて、使い手さんが何年も使い続けてはじめて「いいもの」って何かが分かると思うんです。
-- 最後に今後の展望を!
どこまでユーザーさんが許してくれるのか、常に挑戦しています。先ほども言った、売れないデザインがあっても良いというか。やりすぎていたとしても、自分がやりたいデザインをこれからもやり続けたいですね。あとは、少数派でいたいですね。メガネ業界の中でも、自分のデザインにおいても。自分の中に定番を持ちたくないんです。常にやっていないことに挑戦していきたいですね。