谷口和男眼鏡の谷口和男さんは、ご自身を「自営眼鏡フリーター」と称する、眼鏡の組み立て職人さんです。これまで取材は一切受けてこなかったという谷口さんに、こだわりの仕事&その流儀について伺いました。
眼鏡フリーター
--まずは普段なさっているお仕事についてお聞かせください。
谷口さんの元に届けられるメガネのパーツの数々。これらを谷口さんが組み立て、メガネを完成させる。
自分では、“自営眼鏡フリーター”って呼んでます。
--工程でいうと、谷口さんは眼鏡作りのどの工程をされているんでしょうか?
組立やね。メガネのそれぞれの部品をメーカーさんから、私のところに部品が集まってきて、それを組み合わせて眼鏡にする。組み合わせるだけじゃ売り物にならないから、研磨をしたり、組み立て加工して仕上げる…眼鏡作りのオールラウンドプレーヤーやね。
--ということは、眼鏡作りの一番最後の工程になるんですね。
一番最後は、私が組み立てた後にメーカーさんがブランド名をプリントして完成だけど、うちではプリントはしない。ブランドは関係なく一つのメガネとして仕事をするよ。
--まさに眼鏡職人、眼鏡業界の黒子という感じですね。眼鏡作りの難しさはどういうところにありますか?
同じ生地を使っている同じデザインのメガネでも、枠の反りやウデの蝶番の高さの位置がそれぞれ違ってムラがある。そのムラを私が考慮して組み上げることで良品にするっていうのが難しいところやね。
最も気を使うフレームとウデの接合部。--お仕事をする中で一番気を使うところはどこですか?
眼鏡のウデとフレームを組み合わせるときの蝶番入れや合い口のカットは一番気が張るね。合い口はウデとフレームの接地面なんだけど、その切断面のカットの具合でウデの開き具合も変わる。上手くいかないときは、切断面をやすりで削って調整する人もいるけど、それだと仕上がりの綺麗さが全く違うから私は削らずに、面倒だけどまた蝶番のネジをはずして、カットをし直して調整してるよ。
--手間ひまがかかっているんですね。他にもこだわっているところはありますか?
研磨のところは、ガラ(研磨する機械)に入れて磨くだけじゃなくて、途中で洗浄したりエチールで表面を薄く溶かして艶を長持ちさせたり、艶に深みを出してるよ。メガネによっては磨きすぎないほうがいいものもあるから、そこは見極めてやってるね。
-- 手間をかけ過ぎないほうがいい時もあるんですね。奥が深いです。
あと一番心がけてるのは、やっぱりクレームが無いようにってことやね。一度来たクレームは二度と起きないように。ここ数年、メーカーさんの検品も厳しくなってきてるからね。私のほうでも、夜に蛍光灯の下で傷や失敗しているところがないかをよく見てから出すようにしてるよ。こうすると昼間は見えなかった小さなキズもよく見えるんだよ。「なんでそこまで」という人もいるけど、そうしないときっとクレームが起こる。良い品物になるよう、自分で気が付くことはすべて行うように心がけているね。
好きなように作ればいい
--谷口さんはどうして眼鏡業界に入ろうと思われたのですか?
谷口和男氏
初めは、高校を卒業してから、眼鏡会社に勤めてたんだよ。その時は事務のような仕事をしてたけど作るほうが向いているなって思った。あとは勤務時間が終わるのが待ち遠しい気持ちで仕事をする自分が嫌で21歳で独立したんだよ。
-- 21歳で!早いですね!
独立した時は技術的には全くダメだったね。自信が無くていちいちメーカーに確認を取っていたね。でもある時「メガネは好きなように作ればいいんだ」って気が付いた。それからは人に聞くより自分でよく考えてみて、人がやっている方法でなく自分で方法を探ってやってみるようになった。自分の眼鏡作りが変ったし、メーカーに任せてもらえるようになったね。
-- 一人前になった瞬間はどういうときでしたか?
工場に貼られている座右の銘のひとつ。いちいちメーカーに確認を取らなくてもよくなったときかな。私がメーカーさんの立場だったら信頼していないと任せられないと思うね。信頼して今まで任せてもらってきたってことだろうから感謝してるね。
--若い職人さんにアドバイスをお願いします。
仕事はいい工場やいい機械があってできるものではないってことかな。この機械があればこの仕事が出来るっていう考え方じゃなくて、この機械を使ってこんなこともあんなことも応用できるっていう想像力と考え方が必要かな。それに機械や設備だけでは注文はこない。良品を作ろうと常に心がけることが大切だね。
--お仕事をしていて一番気を張るところは?
治具は小さいけど値が張るものだから、失敗しないように常に心がけてますね。あとはやっぱりスピードだね。治具は2~3日で作らないと、眼鏡屋さんにしわ寄せが来ますから。納期が遅れたら大変だから。
--最後になりましたが、谷口さんの今後の意気込みは?
耳に掛ける部分は、手で曲げた方が機械よりもきれいに仕上がる場合もある、と谷口さん。
夫婦2人でやってるからね、できるうちは仕事を続けていかなきゃ(笑)。今まで続けてこれたのは仕事をくれるメーカーさんと、部品を作ってくれるそれぞれのパーツの職人さんたちのおかげだと思ってるよ。これからも感謝して仕事をしていきたいね。
--本日はありがとうございました!
谷口和男 Kazuo TANIGUCHI
谷口和男眼鏡 社長
組み立て加工職人
生年月日:昭和23年9月17日
社名:谷口和男眼鏡
従業員数:2人
福井県鯖江市吉江町11-2-15
TEL 0778-52-2316